研究課題/領域番号 |
25885074
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石田 教子 日本大学, 経済学部, 講師 (90409144)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | evolutionary economics / 文明史 / 事実問題 / 産業技術 / 効率性 / 技術者 / 機械論 / workmanship |
研究概要 |
アメリカの経済学者ヴェブレンはInstitutional Economicsの先駆者としてのみならず,Evolutionary Economicsの創始者としても著名であり,それゆえ彼の経済思想は両方のアプローチの思想的源泉として現代的にも高く再評価されている.本研究はその意味を経済学史的に探るべく,彼の科学(経済学)方法論と経済理論の統合的理解の可能性を考察することを目的としている.本年度は当初の計画どおり,ヴェブレンのテキストの精読,解析および論点整理に作業を集中した.実績としては学会等での報告が3件と,論文執筆が1件である. 平成25年10月には,第12回アメリカ経済思想史研究会において近年の研究動向に関する報告を行った.研究を進める上では先行研究のサーベイが不可欠であるが,ヴェブレン研究の大型邦文文献稲上毅著『ヴェブレンとその時代:いかに生き、いかに思索したか』の出版を受け,日米欧の研究史上における位置づけ,新解釈および疑問点等などについて考察するとともに,ヴェブレン研究に残された今後の課題について論じた.著者を交えてのディスカッションを行うことができたのは予期せぬ幸運であり,大きな知的刺激を受けることができた. 平成26年2月には,東京大学の日本経済国際共同研究センター(CIRJE)内政治経済学ワークショップにおいて,本研究の進捗状況を発信する機会を得た.つづいて,同3月には「進化経済学の原点に帰る」という統一テーマを掲げた第18回進化経済学会において「旧制度学派の経済学構想:現実を捉える方法の追求」というセッション企画に関わることができ,研究報告「ヴェブレンの文明史における機械の論理と人間の本性」を行った.本報告に関しては,事前にフルペーパーを提出する必要があり,同タイトルの論文を『進化経済学会発表論文集』に投稿した.実質的にこれは本研究の成果論文の草稿となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は当初の計画において3つの作業目的を設定した.(1)科学方法論に関わるテキストの解析,(2)経済理論に関わるテキストの解析,(3)経済学方法論と経済理論の統合的理解の提示,である. (1)に関しては本研究開始以前から着手していたため,さらに検討を要するテキストに関してひきつづき考察を行った.今回の研究費を活用することにより,新たに挑戦しようとした課題は(2)および(3)であったが,こちらも順調に作業を進めることができた.特に,後期ヴェブレンの著作,The Instinct of Workmanship and the State of the Industrial Arts (1914)やThe Engineers and the Price System (1921)の論点整理に取りかかることができたのは,今後の研究計画を推進する上では大きい.当初は2冊同時は困難かとも案じたが,晩年の文献の読解に手を伸ばせたのみならず,科学史および文明史の両方の文脈におけるヴェブレンの科学者像や機械論解釈を軸にして,両著作の内在的関係についても分析を深めることができたからである. また,最終的な研究成果発表論文の本格的な執筆は次年度の課題となる予定であったが,年度末に日本経済国際共同研究センターおよび進化経済学会における2つの研究報告を準備する必要から,当初の計画より早く論文の文章化の作業に着手することができたのは予想外の収穫であった.また,2つの報告において,隣接する研究者たちから有益な助言やコメントを多数得ることができたことも大きな励みとなった.以上の理由から,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
科学(経済学)方法論を含むヴェブレンの経済思想は今日でも高く評価され,一般的にも現代経済学の方法論的再建のために重要な示唆を与えるものと考えられている.だが,彼の諸研究に関する経済学史的解説のレベルは依然としてその名声には追いついてはおらず,より精確な位置づけに関する考察が待たれている.本研究もそうした問題意識に立ち,そのためには彼の生のテキストを丹念に読み直すことに立ち戻る必要があると考えている. 本研究の期間は2年であるから,平成26年度は最終年度となる.したがって,本年度はこれまでの成果を取りまとめる作業を中心に行い,研究成果発表論文の執筆を本格的に進めるという方策を採る.論文に関しては幸いにも昨年度末の研究報告の準備の過程でおおよその骨子はできあがっているので,具体的な作業は,英文化,より説得力のある論理構造に修正するための加筆や校正,投稿誌の条件に合わせた文字数へのコンパクト化などが中心となる.そして,こうした地道な作業を第一に進めながらも,問題関心の近い研究者の集まるワークショップや研究会に積極的に参加し,助言を得たり知的刺激を受けるための機会を活用する予定である. また,本研究の遂行過程で,上記の論文とは別に,初期ヴェブレンの哲学研究の意義を明らかにする小論を執筆する必要が生じた.主にI.カント研究を中心とした若き日のヴェブレンの科学方法論が,いくつかの論点において後の経済学方法論の議論の前提となっていることが判明したからである.さらに,ヴェブレンの経済思想に関わる最近の研究書出版を受け,経済学史学会の機関誌『経済学史研究』からの依頼により書評執筆の機会を得た(R.ティルマンおよび稲上毅による2冊の新著).いずれも本研究の研究成果発表論文の質的向上に資することは必至であり,この好機を逃すことなく同時進行での執筆を目指す考えである.
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