本研究では、チェルノブイリ原発事故以降の日本の脱原発運動に焦点をあてながら、その市民社会の特徴について考察した。具体的には、脱原発運動の価値や行動スタイルが市民社会に及ぼした影響を明らかにし、さらに、脱原発運動の価値やスタイルの民主主義的な意義を政治理論の観点から読み解いていった。 研究期間中は、「生活」、「政党」、「直接行動」という三つの領域に関して研究を進め、成果を論文の形で発表した。「チェルノブイリ事故後の放射能測定運動と民主主義―生活クラブ神奈川の実践を中心に」『年報カルチュラルスタディーズ』(2015年)、「脱原発運動と国政選挙―1989年参議院選挙の「原発いらない人びと」を中心に」『ソシオロジスト』(2015年)、「六ヶ所村女たちのキャンプの民主主義」『ソシオロジスト』(2014年)では、「ライフスタイルの問い直し」、「市民政党の結成」、「非暴力直接行動」という脱原発運動から生まれた民主主義の実践について考察した。 他にも、地方に移住したアクティヴィストへのインタビューを通じ、コミュニティにおける民主主義の展望も探っていった。これに関しても、「ネオリベの時代に新農本主義を求めて」『現代思想 総特集 宇沢弘文』(2015年)、「グローバルな小農民運動のフレーム」『社会学評論』(2014年)の二つの論文の中で、「ライフスタイルとしての農」という鍵概念を提示した。すでに行なっているインタビューと合わせて、さらなる成果を公表する予定である。 また、学術会議等での報告も行なうなど、計画は順調に進行し、成果も発表することができた。2011年の福島第一原発事故以降、国内外の研究者の間で日本の市民社会に対する議論が盛んになされており、本研究は、こうした社会的、学術的な関心に資するものと考えられる。
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