本研究の目的は障害福祉と介護保険におけるホームヘルプサービスの適用関係をめぐる制度の谷間の問題(適用関係問題と呼ぶ)に照準し、その実態を明らかにすることである。平成26年度はこの問題を把握するために、行政官ならびにサービス事業者への調査を行った。 第1に、障害福祉を担当する行政官に対するインタビューでは(関東圏・25万人規模の市)、例年65歳を境に障害福祉サービスから介護保険へと移行する「障害者」が、居宅介護利用者全体のうち1%前後(重度訪問介護では10%前後)、存在することがわかった。行政は、利用者が65歳を迎える際に介護保険の利用を口頭で通知しており、制度移行について理解を得られるよう努めているという。しかし、数名の利用者から必ず疑義を呈する問い合わせがあり、スムーズな移行は進んでいない実態がある。その結果、介護保険と障害福祉サービスの併用が認められる事例が例年、生まれている。 第2に、介護サービスを提供する事業者に対して、インタビュー調査を実施した(関東圏・50万人規模の特別区に所在する社会福祉法人)。適用関係に関する問題は、市区町村が介護サービスの「標準支給量」をあらかじめ組織内で定めていることも構造的な要因としてあげられるという。そのことがサービス支給の上限を設定してしまっており、ニーズにもとづくのではない支給決定が行われている現実が指摘された。そのため、新規にサービスを利用する者や65歳を境に介護保険に移行する者は、サービス支給量に強い制約を受けることになる。また、適用関係問題をめぐっては、行政内の障害福祉を所管する課と高齢福祉を所管する課の連携が取られておらず、その結果、利用者の利益を尊重する支援体制が組まれていないことも問題として語られた。 適用関係問題は、利用者の不利益へとつながる恐れがあり、介護保障の確立に向けて、今後も入念な調査を継続する必要がある。
|