1960年代後半に大阪府枚方市香里団地から始まり、1970年代から80年代にかけて全市的に広がりを見せた公立幼稚園の新設および定員の増員をもとめる幼稚園運動について、具体的実態を明らかにしたうえで、地域社会における女性の主体形成という観点から社会教育実践としての意味や価値を分析する作業を行なった。原武史『団地の空間政治学』(NHK出版、2012年)は特定の党派による運動として香里団地の幼稚園運動を描いている。しかし、香里団地を中心とした地域で読まれていたコミュニティ紙『香里めざまし新聞』や『香里団地新聞』、枚方市の広報紙『広報ひらかた』を主要な史料に、香里団地の具体的な人間関係や「つきあい」のレベルに照準を合わせて史料を分析・検討した結果、1960年代後半から70年代にかけての幼稚園運動はあくまでも超党派の地域の住民運動として展開し、枚方市に革新自治体を誕生させる主要な契機となったこと、1960年代前半の香里団地における公立保育所づくり運動との接点で幼稚園運動が展開したところに特徴があり、保育所における集団保育の思想が運動のなかで学ばれ、地域ぐるみで「子育ての社会化」を常識化しようとする独特の主婦(母親)の運動であったことを本研究では明らかにした。 本研究の対象である1960年代から80年代にかけて、枚方市は日本社会党籍の市長が市政運営を担う戦後日本を代表する革新自治体の一つであった。1967年から75年にかけて枚方市長をつとめた山村富造の著作や『広報ひらかた』の記事を精緻に分析することで、枚方の革新市政の成果や問題点を考究した。さらに、同時代の革新自治体の理論的支柱であった政治学者の松下圭一の市民自治論を検討し、その特質を明らかにした。
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