本年度の研究実績は大きく二つある。①戦争裁判における死刑と、1948年の新憲法下における死刑制度合憲判決に注目し、戦前から戦後への刑罰思想の連続と断絶の一端を明らかにした学会報告を行なったこと。②刑事施設にみられる規律・訓練権力とは違う、身体に直接介入する権力について、一般刑罰ではなく体罰に注目して研究を行ない、共著論文を執筆したことである。 昨年度は、死刑存廃論がどのように両論併記の状態にとどまり、死刑存置=現状維持という結論に至っているかを分析し、カントの死刑論、および日本国憲法で死刑が合憲とされていることには議論の余地があることを明らかにした。また、軍隊における刑罰についての思考様式についての考察も行なった。そうした研究成果をふまえ、今年度は1948年の死刑制度合憲判決の歴史的・社会的背景に注目して、研究を行なった。その際、戦争裁判における死刑、特にスガモプリズンにおける死刑が、銃殺ではなく絞首であったことに着眼した。そこから、同時期の死刑制度合憲判決が出された際、絞首を残酷な刑罰とすることが、GHQ批判として受け取られかねない歴史的・社会的状況があったことを明らかにした(①)。これは戦争にまつわる刑罰と一般刑罰が相互に関係しあっていた可能性を示唆するものであり、当初の研究計画よりも広い視座からの刑罰研究への道を拓く成果となった。 ②では、共著論文の担当箇所において、2013年の大阪市教育委員会による体罰概念の再検討と、植民地刑罰における笞刑を研究した際に得られた知見とを合わせることで、体罰の詳細な分類を行なった。そこから、各種の体罰の否定の根拠がそれぞれ違っていることを明らかにした。これは、身体的苦痛による社会統治について研究する際、特にその史料を読み込む際の基礎となる視座を拓く成果となった。
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