論理教育のための教材および指導法を作成するために幼稚園5歳児・小学校全学年の児童におこなった「論理的思考力」に関する認識調査の結果から次のことが明らかになった.幼稚園5歳児においては、論理語(not,and,or)は概ね理解できているが,言葉などで表現できる段階に差し掛かったところであることが明らかとなった.また小学校全学年の児童においては,演繹法による多段階の推論が可能であるのかどうか,その傾向を明らかすることを目的として認識調査をおこなった.その結果,1年生であっても,推論の数によらず日常的な命題を用いて多段階の推論が可能であること,また,否定の概念を含む対偶型の推論は,2年生と3年生の間に,発展段階の壁があることが明らかとなった. 次に、教材および指導法を策定するために「算数的活動」の視点を整理した.その結果,ICTの積極的な活用,現実事象を扱う,「数学概念形成」抜きの「問題解決型学習」への流れに陥らないよう注意することが重要であることが明らかとなった. 以上の知見を元に,小学校5年生を対象に研究目的に接近するために,「多段階の推論」指導のための教育内容・指導法を教育実践の検証をとおして提案することを目的とする教育実践をおこなった.教育実践の内容については,論理に関する授業が初めてであったため,記号論理の基礎である「命題」,「論理語」,「推論形式」を扱った.「多段階の推論」については古典落語の「風が吹けば桶屋が儲かる」を取りあげた.「推論形式」「論理語」を駆使して,5段階程度の「多段階の推論」の作品を考え「推論図」を利用しiPad(Keynoteアプリ)を用い作品を完成させて発表会をおこなった.教育実践で設定した教育内容,指導法は全般的に「論理的思考態度」を高める効果があり,また「言語力」も高める効果が期待できることが明らかになった.
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