本研究は、「発達に心配のある児童を対象とした音楽療法」の臨床場面における対象児童と臨床者間の相互コミュニケーションの形成過程を調べるために、音と映像の蓄積・分析による新たな支援・評価方法を確立することが目的である。平成26年度は、以下の手順で研究を行った。 1.「質的情報の構築」:PC(マインドマップツール)とiPad(時間記録メモアプリ)を使用、臨床内容と記述評価・時間情報を簡易的に記録する手法を確立した。保護者を対象とした対象児童の社会性・生活の質に関する記述アンケート用紙を作成した。 2.「生体情報の構築」:簡易生体センサー・アプリを利用し、臨床場面を想定した心拍(波形、周期)・身体動作の自動計測の基礎研究を行った。 3.「ELANを活用した音声・映像の評価の構築」:音楽療法の重要な臨床情報の抽出結果をもとに、行動観察による評価視点の分類・簡略化を行い、評価基準を定めた。特に、コミュニケーションの発達過程において重要である音楽・(物・楽器)・人との間に生じる非言語・前言語的コミュニケーションに着目し、「動作・楽器表現、注意行動、音声表現(発声・発語)」の複数の評価項目の相互の時系列関係を詳細に評価・分析するための手法を確立した。少数事例の相互相関分析(同期している、片方が遅れている、無関係かを検討する方法)の結果、前言語的注意・動作と音声表現の時系列関係の重要性が示された。 上記の研究手法を統合的に活用することで、これまで時間のかかっていた多量の臨床情報の整理・評価を円滑にし、目に見える結果を示すことが難しかった「臨床場面の対象児・臨床者間の動作表現・注意行動と音声表出過程の時間関係」を詳細に分析することを可能とした。本研究で確立したコミュニケーション・自我形成過程の発達変化の定量化・可視化の手法は、広く発達支援の現場で適用可能な臨床評価モデルとなることが期待される。
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