本年度は,経験的調査の準備においてリサーチ・サイトとの交渉が長期化している点を踏まえ,当初の研究計画の一部であった,組織ルーティン研究の理論的・方法論的基盤に関する研究を軸に据えて研究を進めてきた。 まず,組織ルーティン概念の理論的射程を明らかにするため,組織ルーティン研究の嚆矢となったハーバート・A・サイモンの学説を検討した。具体的には,彼の理論体系の中核概念である限定合理性を検討し,同概念が個人の合目的的行動を引き出すために意思決定環境に制約を与えるという意味で解釈すべき概念であり,組織ルーティンはその手段として位置づけられる概念であることを明らかにした。以上の研究成果を論文にまとめ,学術雑誌に公刊した。 次に,組織ルーティンが規範的な決定ルールをつうじて人々の実践を統制する管理実践を照射する概念であることを経験的に検討すべく,過去の調査研究である航空機整備の事例を再分析した。研究成果を海外の査読つき雑誌に投稿すべく準備を進めてきたが,本年度は原稿執筆と英文校正にとどまり,投稿には至っていない。 最後に,組織ルーティン概念の方法論的含意を検討した。組織ルーティン概念が上記の理論的含意を持つことを踏まえれば,方法論的には,われわれ研究者は組織ルーティンを現実の写像として記述するだけでなく,それを踏まえた決定ルールの開発に積極的に関与できる可能性に拓かれる。以上の研究成果を論文にまとめ,図書(論文集)に公刊した。
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