不安障害の中心的症状として,一度生じたネガティブな思考が持続し,いつまでも抑制できないというネガティブな思考の抑制の困難がある。本研究では,不安障害者や健常者の高不安者がネガティブな思考を抑制できない背景として,これまで検討されてこなかったワーキングメモリの制御機能の低下に着目した。本研究の目的は,「不安障害のネガティブな思考の抑制の困難はワーキングメモリの制御機能の低下によって起こる」という仮説を,高不安者(不安傾向が高い健常者の大学生)を対象として検証することであった。 本年度は,実験研究と実験研究を行うための準備としての調査研究とを行った。実験研究では,ワーキングメモリの制御機能を検証するための,実験課題の作成を行った。制御機能の3つの代表的な機能のうち,ネガティブな思考の抑制と関連が強いと考えられる情報を更新するなどの機能であるupdatingの機能に注目した。具体的には,updating機能を測定する代表的な課題である N-back課題を用いて, 無関連情報の抑制と関連情報の活性を測定するための課題を作成した。調査研究では,高不安者を高い精度でスクリーニングができる質問紙の開発のための予備的検討として,項目反応理論(IRT)を用いて行った。調査の結果,尺度の精度を高めるために,2因子を仮定した尺度の作成の必要性が示された。 また,ワーキングメモリと感情に関する文献展望を行った。不安に関するワーキングメモリの制御機能に関する研究では,抑うつなどの他の研究領域と比較して不足しており,今後,体系的な研究の蓄積が必要であることが明らかとなった。
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