研究課題/領域番号 |
25885117
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 福岡国際大学 |
研究代表者 |
壷内 慎二 福岡国際大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (30710529)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 株式所有 / 株式市場 / 外国人投資家 / 国内金融機関 / 雇用 / 雇用調整 / コーポレート・ガバナンス / パネルデータ分析 |
研究概要 |
今年度はコーポレート・ガバナンスの変化が雇用調整速度にどのような影響を与えるかというテーマについての既存研究のサーベイ及び企業のマイクロデータを用いた実証研究を行った.今年度の補助金はこれらの研究を遂行するための文献購入,企業のマイクロデータの購入,統計ソフト及び研究報告の旅費に充てられた. 既存研究では国内企業に対する国内金融機関の株式所有比率の減少,外国人投資家の株式所有比率の上昇が長期雇用慣行に影響を与え雇用調整速度を速めると指摘されていたが,既存研究の中には企業のマイクロデータを用い国内金融機関のガバナンス低下にも関わらず,雇用調整が行われていないことを報告する研究もある.そこで,そのような企業特性として(1)資金調達面で自己金融が利用されている,(2)労働時間や非正規雇用への切替えによる調整が行われている,(3)熟練労働に対する評価が高いことに注目し,これらの特性と雇用調整速度との関連を考察した.これら3つの企業特性が雇用調整を遅らせると考えられる背景は以下のとおりである.(1)では,内部留保を含む自己資金が潤沢であるならば,金融機関ないし外部投資家のガバナンスが変化したとしても,雇用調整を行わずに済む.(2)では,雇用調整の圧力がかかったとしても,労働時間や非正規雇用への切り替えによって雇用量を変化させずに調整を行うことができる.(3)では,熟練労働に対する評価が高い場合には,雇用調整を実施する費用が高い,である.これらを補助金で購入した企業のマイクロデータ及び統計ソフトを用いて考察した結果,自己資金が潤沢であるほど,労働時間や非正規雇用の利用が活発なほど,熟練労働に対する評価が高いほど,雇用調整速度は遅いことが認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25 年度は研究の初年度として,関連する理論研究のサーベイとデータの収集・整理に充てられる予定であった. 本研究の目的はコーポレート・ガバナンスと雇用調整速度の関係を明らかにすることであるが,両者の関係を検討するより前にコーポレート・ガバナンスおよび雇用調整速度がそもそもいかなる要因で決定されるかを確認する必要がある.そのためには理論研究のサーベイが欠かせない.研究の遂行上,予想される困難は,本研究が経営学と経済学の融合分野に位置するために,分野をまたぐ広範なサーベイが要求される点である.申請者の所属する福岡国際大学は,国際コミュニケーション学部しかなく,申請者の専門ではない経済学分野のサーベイを実行する上で困難な環境にある.しかし,補助金を得たことで関連分野の文献が数多く購入でき、当初の目的がほぼ達成できた. データの収集について,本研究で必要となるデータは,企業レベルのマイクロパネルデータであり,①株式保有状況に関するデータ,②雇用量に関するデータ,③その他企業の性質に関するデータが必要であった.日経NEEDS には②の雇用量のデータも含まれているので,データの入手可能性が担保できれば,本研究の分析が可能であった.この問題も補助金を得たことで日経NEEDESデータを入手でき解決した. 以上から本研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
平成26 年度以降は,初年度に整理したデータセットを用い,理論的研究のサーベイを踏まえて設定した回帰式を推計(パネル分析)し,結果を考察する予定である.被説明変数となる雇用調整速度の定義は,「最適な雇用量と前期の雇用量のギャップの何%を今期調整したか」というものである.理論的には二次型調整費用関数を用いた企業の通時的利潤最大化行動から得られる部分調整動学式である.定義に含まれる最適な雇用量は観察不能であるが,過去の雇用量からのローリング推計から得る.この手法は既存研究でも一般に用いられている.説明変数には金融機関や外国人の持ち株比率,銀行からの借入金などコーポレート・ガバナンスに影響すると考えられる変数が含まれる.さらに産業や企業特性をコントロールすることで,雇用調整速度に企業間の非対称性が存在することを実証する予定である. 次に,さらに分析を精緻化して,雇用調整速度の非対称性が,企業のいかなる特性によって生じたのかを明らかにする.具体的には,雇用調整速度の非対称性の原因は,企業間のガバナンス自体の非対称性か,それ以外の企業特性の非対称性か,ガバナンスの影響力の非対称性か,を明らかにする.これらはそれぞれ,説明変数にガバナンス変数,企業特性の変数,ガバナンスと企業特性のクロス項を用いる分析によって明らかにすることができる.
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