今年度はコーポレート・ガバナンスの変化が雇用調整速度にどのような影響を与えるかというテーマの研究成果を論文として発表,さらに配当政策に与える影響まで研究範囲を広げ,その成果を学会報告として発表することができた.今年度の補助金は予定していた研究成果の報告に加え,研究範囲をさらに広げるための文献購入,情報収集のための機器購入,旅費,及び追加的な研究報告などの旅費に充てられた. 当初,国内企業に対する国内金融機関の株式所有比率の減少,外国人投資家の株式所有比率の上昇が長期雇用慣行に影響を与え雇用調整速度を速めると指摘されていたにもかかわらず存在する雇用調整速度の遅い企業の特性を導きだし,雇用調整との因果関係を証明することであった.そして, (1)資金調達面で自己金融が利用されている,(2)労働時間や非正規雇用への切替えによる調整が行われている,(3)熟練労働に対する評価が高いことに注目し,これらの特性と雇用調整速度との関連を明らかにすることができた.すなわち,(1)では,内部留保を含む自己資金が潤沢であるならば,金融機関ないし外部投資家のガバナンスが変化したとしても,雇用調整を行わずに済む.(2)では,雇用調整の圧力がかかったとしても,労働時間や非正規雇用への切り替えによって雇用量を変化させずに調整を行うことができる.(3)では,熟練労働に対する評価が高い場合には,雇用調整を実施する費用が高い,ことである. 以上の研究は全国地方銀行協会金融構造研究会の機関紙『金融構造研究』第36号(平成26年5月)にて「コーポレート・ガバナンスの変化と雇用調整」,証券経済学会の証券経済学会年報第49号(平成26年7月)にて「株式所有構造の変化と雇用調整」としてそれぞれ掲載された.配当政策を含むガバナンスと雇用調整との研究は平成27年3月に証券経済学会九州部会(熊本学園大学)において報告した。
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