本研究では、教育の私費負担構造が固定化・制度化されていく1960年代以降、私費負担を軽減するための地方自治体および学校レベルで学校財政基準が制定されてきたこと、また教育の無償制への教育当事者レベルでの制度的な理論と実践の存在を歴史実証的に示した。その上で、無償教育を先進的に規定してきた国際人権法における教育財政法制原理の整理と分析を、主に社会権規約の一般的注釈でなされている法解釈、子どもの権利条約に関する国連文書、そして欧米の研究者を中心に進められている人権法解釈研究を素材として進めてきた。そこでは、(1)「無償」の概念と範囲が、わが国のそれとは大きく異なること、(2)立法・行政による無償教育施策の実行の程度を計測する指標枠組みが提起されていること、(3)政府が国際人権法の規定を実行しなかった場合には、社会権であっても司法による判断がなされ得ることが明らかになった。ここから、(1)国際人権法と国内教育条件整備法との整合性をめぐる詳細な法的分析、(2)無償教育の先進国における国際人権法と教育条件整備法との整合性とコンフリクトの修正の事例検討、(3)教育の権利保障の実現程度を指標化する理論研究の整理と指標の分析、そして(4)無償教育の具体的なシステムの構築に向けての地方自治体・学校レベルにおける教育財政ガバナンスの検討が、現在取り組む研究をさらに進める上で必要となる。などがさらなる研究課題として析出された。
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