生徒の学力向上を促す上では,教育評価を通じて,生徒の学習の質を向上させることも重要になる。学校教育の教育評価では,現在も学力テストが重要な役割を果たしているが,生徒の学習を適切に支援できるかどうかは,テストの質やテストの運用方法に依存することになる。そのため,生徒の学習を効果的に支援するテストの開発や,フィードバック方法を提案することが重要になる。 そこで本研究では,生徒の学習達成度や理解状況を多次元的に測定し,生徒の学習上のつまずきを明確にすることのできる認知診断テストに着目した。まず,日本の中学校で広く実施されている教研式標準学力検査NRT「中学1年数学」に対して,認知診断モデルによる学習診断を適用し,その有用性を検討した。その結果,認知診断モデルを適用することで,テスト全体の得点や,「数と式」「図形」などの内容領域別の得点からは知ることのできない診断情報が得られることが示された。教研式標準学力検査NRTのように,小・中学校での利用頻度が高い標準テストに対して認知診断モデルを適用することの有用性を示したことで,認知診断モデルによる学習診断の実践での利用可能性が高まったといえる。 次に,そもそも学習者は,テスト結果に関するフィードバック情報をどのように活用しているのかという問題について,PCを用いた実験によって検討を行った。その結果,学習者の多くは,間違った問題の正答は確認するものの,解説の確認はせず,なぜそのように解くかには注意を向けないことが示唆された。また,学習内容の習得を目標にする学習者ほど,正解した問題であっても解説の確認をするなど,解答だけでなく,問題解決のプロセスにも注意を向けて見直しをする傾向にあることが示唆された。このことから,学習者の習得目標を高めることで,テストを活用した見直しが促進されると考えられる。
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