本研究は粒径依存した金銀合金ナノ粒子の脱合金化メカニズムの解明を通して腐食の原子レベルの挙動を理解する研究である。昨年度の結果より、硝酸を用いて脱合金化した試料を電子顕微鏡を用いて粒子形状の観察し、また、エネルギー分散型X線分析を用いたその場元素分析も行い金と銀の原子濃度比について調べた。それらの結果から、ナノサイズにおける脱合金は幾何学エネルギーの増大による自己溶解エネルギーと化学ポテンシャルの差による合金の溶出エネルギーのバランスで成り立っているという実験結果を得た。電子顕微鏡観察より、同条件同試料の中において、脱合金化されて穴の開いている粒子と穴の開いていない粒子が点在していることがわかり、その境界が粒径サイズが10-13 nmであることがわかった。粒径が大きい場合、バルク合金と同様に標準電極電位が大きい銀が選択的に溶出して多孔質を形成した。一方で、粒径サイズが10 nm以下の場合、標準電極電位による銀の選択的溶出エネルギーよりも粒径が小さいことによる幾何学ポテンシャルエネルギーのほうが大きくなるため、安定である金も銀と同時に溶出し始めた。 本年度はこれら実験解釈が正しいか検証するためにどのくらいの粒径のときに幾何学ポテンシャルと化学ポテンシャルが拮抗するかどうか計算した。化学ポテンシャルの式であるネルンストの式を用いて化学ポテンシャルの値を計算したところ、金銀合金粒子のサイズが6-8nmのときに幾何学ポテンシャルと化学ポテンシャルが拮抗するという結果が得られた。これは実験的に得られた多孔質化が始まる平均粒径10-13nmと良い一致をしており、幾何学ポテンシャルと化学ポテンシャルが脱合金、つまり、多孔質化の始まる粒径サイズよく説明できるモデルであることが証明された。本成果は投稿準備が終わり次第、発表する予定である。
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