孤発性アルツハイマー病(SAD)は、現在最も患者数が多い神経変性疾患であり、当疾患の発症機序解明は急務である。SADにおける神経細胞死は、低酸素刺激により発現誘導される因子が小胞体機能を障害するために生じることが知られている。本研究では、当仮説の証明、及び、治療法・治療薬開発に必要となる本疾患のin vitroモデルの構築に向け、神経細胞に低酸素刺激を加えられる培養デバイス開発を目的とした。 このために、申請者はマイクロ流体デバイス(µFD)に着目した。µFDは、液中の酸素濃度をコンピュータ制御し、かつ、省スペースで効率的な細胞培養を可能とする。また、神経細胞の長期培養は通常の2次元基板上であると非常に困難なため、3次元細胞足場としてナノファイバーを用いた。 前年度までに、①ナノファイバーの基板表面上へのパターン化、②パターン化されたナノファイバーのマイクロ流体デバイスへの組込み、③開発した細胞培養デバイスでの無血清・非ヒト由来成分不含の条件下での細胞培養、を完了した。本年度では、③刺激に対する培養細胞の効率的かつ効果的な1次スクリーニング法の検討、を行った。具体的には、48種類の培養条件の異なるサンプルについて、核、多能性、細胞死、細胞増殖の4種類の表現型発現について免疫染色を行い、得られた画像から、画像解析により発現量を定量し、このデータをさらにコホネンの自己組織化マップにより2次元平面に非線形写像することにより、細胞の不均一性(heterogeneity)を含めた定量的評価を行った。さらに、クラスタリング解析により、複数の培養条件(19種類)をグループ化し、各グループについてRT-PCRによる詳細な解析を実施し、1次スクリーニング法の効果の検証を行った。今後は、開発した本デバイスにより、酸素濃度制御下での神経細胞の長期培養を行っていく。
|