本研究は球面収差補正器付き走査型透過電子顕微鏡(Cs-corrected STEM)と電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いることで、実験的に結晶中の個々の原子の電子状態を空間分解能は原子分解能で電子軌道を分離して抽出することを目的とした研究である。 研究ではペロブスカイト型酸化物であるSrTiO3結晶の酸素原子の電子状態について、実験データに対して理論処理を施すことで、原子分解能で電子線の入射方向に対して垂直方向の電子軌道成分を抽出することができた。これにより構造が既知の単結晶材料であれば理論計算を組み合わせることで電子軌道の異方性が検出できうることを実証したことになるが、一方で、実験rawデータでこれら異方性を検出することが困難であった。 そこで特定方向に散乱された電子だけを取り込むスリットを装備した電子顕微鏡を使用することで実験を行ったが、実験的に優位な差を得ることが出来なかった。これはスリットが装備された電子顕微鏡の空間分解能にも依存している為、最新の顕微鏡による追試が必要になってくると考えている。 電子軌道の異方性の検出はX吸収分光(XAS)やEELSでは古くからされている手法であるが、これを空間分解能が原子分解能にまで発展させることは材料研究において重要な測定技術である。
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