大規模集積回路の高性能化に向けて、その基本構成素子である金属-酸化物-半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の性能向上が急務とされている。代表者はその実現に向けた課題である「Geデバイスの極薄構造における電荷制御」について研究を行った。具体的には「(1)MOS界面電荷と固定電荷の相互補償」と「(2)金属/Ge界面の障壁制御」に取り組んだ。 (1)は、MOSゲート絶縁膜中の電荷総量をゼロとすることで、キャリアが受ける散乱を極小化し、極高移動度化を図るアイデアである。MOSゲート構造としてAl2O3/GeOx/Geを採用し、絶縁膜中の固定電荷制御を行った。Ge基板上に原子層堆積法によってAl2O3膜(0.4~2.5 nm)を堆積したのち、基板に酸素プラズマを照射してAl2O3/Ge間にGeOx層を成長させた。この時のAl2O3層の膜厚によって、ゲート絶縁膜中の固定電荷量を+8×1010から-4×1012cm-2と広範に制御できることを発見した。これは、Al2O3 増膜に伴いGeに到達する酸素原子が減少することで負の固定電荷が生じたためと考えられ、前年度の研究結果とも合致する。Ge MOSの界面準位密度は一般に1010~1012 eV-1cm-2の範囲にあるので、本手法によって固定電荷を制御すれば、界面電荷と固定電荷を相殺できることがわかった。 (2)はGeの性質上困難な金属/Ge界面の障壁制御に挑むものである。例外的に低い電子障壁を示すZrN/Geコンタクトにおいて、その界面に形成される非晶質界面層に着目した。Ge上にZrNを堆積後、非晶質界面層のみを残してZrNを除去し、代わりに種々の金属を堆積して得られる障壁高さを測定した。その結果、界面層厚さが薄い場合に、金属の仕事関数に対応した障壁高さ(ピニングファクタS~0.27、通常の金属/GeはS~0.05)が得られる事を見出した。この現象は、非晶質界面層による金属誘起準位の阻害と、窒素由来のダイポールによって生じていると考えられ、また本手法によって障壁高さを制御できることを意味している。
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