研究実績の概要 |
近年の気候変動/地球温暖化に伴って、極域の雪氷-海洋圏に大きな変化が現れはじめてる。特に、南極氷床の質量の加速度的な損失が危惧されており、その主たる原因は海洋の熱による南極氷床/棚氷の融解であることが示唆されている。本研究は、棚氷-海氷-海洋結合モデルを用いて南大洋-南極氷床の相互作用を理解すること、特に棚氷融解水が海氷/海洋場へ与える影響を明らかにすることを目的とした。 まず、南大洋を周極的に 10-20 kmの水平解像度で覆った棚氷-海氷-海洋モデルを整備し、棚氷融解水の行方を詳細に調べた。棚氷融解水はその生成場所によって、流れ着く場所が大きく異なっていた。特に、西南極域の棚氷の融解水は南大洋を東向きに流れる南極周極流に取り込まれやすく、低緯度方向に効率的に輸送されることがわかった。また、いくつかの比較数値実験から、棚氷の底面融解水は南大洋の海氷分布及び子午面循環にも影響を与えることがわかった。 同様の周極モデルを使って、最終氷期最盛期における棚氷底面融解量を見積もった。大気及び海洋の温度は現在よりも低いにも関わらず、棚氷が沖側にせり出していることにより、南極周極流の暖かい水が棚氷底面に流入しやすくなるために、棚氷底面融解量/融解率は現在よりも大きくなることがわかった。 東南極のウィルクスランド沖をターゲットにした数値モデリングも実施した。この海域では、2010 年 2月にメルツ氷河舌の一部(75 km,全体の75%程度)が分離するイベントがあった。この前後を模した数値実験を行なった。氷河舌がなくなることにより、海氷生産場所や海洋循環が大きく変化する。その結果、残りの氷河舌の底面融解率は氷河舌分離前よりも小さくなることがわかった。これは、氷河舌に冷たい水が支配的に流入するようになったためである。
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