これまでの研究で、リーマンゼータ関数の絶対収束域外におけるオイラー積の漸近挙動について研究を行ってきた。オイラー積がある種の漸近挙動を持つことはリーマン予想よりも強い主張であり、それはある素数分布と同値であることが得られていた。他にゼータ関数の零点分布と関連が深いものとしてメビウス関数が挙げられる。メビウス関数はリーマンゼータ関数の逆数のディリクレ級数表示に現れるものである。また、メビウス関数の和のある評価はリーマン予想だけでなく零点の重複度の評価を従えるものであり、時にオイラー積よりも強い情報を持つものである。 そこで本年度は、メビウス関数を係数に持つディリクレ級数の、絶対収束域外における条件収束について研究を行った。その結果、リーマンゼータ関数の逆数が持つディリクレ級数は、中心点では発散することが分かった。また、このディリクレ係数に小さな変更を加えたディリクレ級数の中心点での条件収束と、メビウス関数の和の分布の間の論理的な関係についても考察を行った。その結果、1)メビウス関数の和に関するいくつかの予想を仮定すると、ディリクレ級数は条件収束すること、2)ディリクレ級数の条件収束を仮定すると、メビウス関数の和に対しある不等式が成り立つこと、などが分かった。ディリクレ級数の収束とメビウス関数の和の評価の間に分かり易い必要十分条件が得られなかったことには不満が残るが、それは今後の課題としたい。 また、上記二つのディリクレ級数について数値計算を行った。その結果、上記の収束、発散を支持する数値結果を得た。さらに、ディリクレ級数とメビウス関数の和の間に明示的な関係があることを示唆する数値的な結果を得た。
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