本年度は、昨年度にひきつづき量子色力学(QCD)および関連する強結合の場の理論の研究を以下の5点で遂行した。(1)昨年は強磁場中のQCDのふるまいを2フレーバーのモデルで研究した。本年はこれをさらに拡張し、3フレーバーのモデルで汎関数くりこみ群を用いて解析した。得られた帯磁率は広い温度範囲にわたって格子QCDのデータと定性的に一致した。各種のメソンのscreening massの磁場依存性も計算した。(2)高アイソスピン密度におけるQCDのディラック演算子のスペクトルを説明するランダム行列模型を提案し、その数理的性質を明らかにした。(3)有限密度では経路積分のウェイトが複素数になるため格子QCDシミュレーションには問題が生じる(負符号問題)。これを解くための手法として経路積分のLefschetz thimble分解に着目し、その有効性をゼロ次元のカイラル有効模型において示した。(4)漸近自由なゲージ理論は通常4次元までしか定義されないが、一方でHoravaは理論のローレンツ不変性を壊すことで高次元でも漸近自由性を保てる可能性を指摘していた。本研究ではこのHoravaの理論を初めて格子上で非摂動的に定義し、なめらかな連続極限の存在を示唆する数値計算結果を得た。(5)クォークが随伴表現に属するQCDはadjoint QCDと呼ばれ、様々な興味深い性質を持つことがわかっている。このadjoint QCDをR^3xS^1でツイストした境界条件のもとで解き、相図の構造を議論した。摂動計算や半古典近似、モデル計算などを組み合わせて質量ギャップの境界条件依存性を初めて計算することに成功した。
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