研究課題/領域番号 |
25887015
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
志村 恭通 東京大学, 物性研究所, 研究員 (10713125)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 磁気転移 / 圧力 / 電気抵抗 |
研究概要 |
申請者は重い電子化合物 a-YbAlB4 の単結晶試料を合成し、圧力下での電気抵抗測定を行った。まずは圧力効果に対する全体概要を把握するために広い温度領域(2.4 K < T < 300 K)および広い圧力領域(P < 8 GPa)に対して実験を行った。 その結果、8 GPa, 4.5 Kにおいて磁気転移を示唆する折れ曲がりを発見した。これは圧力により磁気的な量子臨界点に接近していることを示す。またその圧力・温度依存性は類似構造を持つ重い電子超伝導体 b-YbAlB4 のものと極めてよく似ていることを明らかにした。この結果は a型とb型のYbAlB4が同じ枠組みで理解できることを示す重要な成果である。 一方で申請者は大学院生を指導して、 a-YbAlB4 に対する元素置換による電子/ホールのドープ効果を調べた。申請時に行っていたCuの置換が困難であったため、異なる元素置換に挑戦したところ、今回新たにMnがAlサイトに置換可能であることを明らかにした。そしてその a-Yb(Al, Mn)B4 に対して比熱や磁化測定を行ったところ、約 20 %程度のMn置換で、従来のYb系化合物と比較して驚くほど高い温度(20 K)で磁気転移を示すことを発見した。さらに電気抵抗測定を行ったところ、a-YbAlB4 において見られた金属的な挙動が失われ、半金属的な振る舞いを示すことを明らかにした。これは本系の異常に高い転移温度の起源が従来の伝導電子を媒介とした相互作用とは異なる新しい機構であることを示す重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は a-YbAlB4 の圧力・磁場効果およびAlサイトを他の元素に置換した系の物性測定からYb系重い電子化合物に対する普遍的な相図の完成である。初年度の研究において、a-YbAlB4 の高温、高圧下での圧力応答を調べた。そして磁気転移を示す臨界圧力(約8 GPa)を見出したことにより、その普遍的な相図が徐々に明らかになりつつある。今後、より低温・磁場中・圧力下での測定を進めることで、その全容がより明確になると考えられる。 一方、Mn置換系に対しても、すでに磁化、比熱、電気抵抗といった基本的な物理量のデータは得られており、置換量と転移温度の相図も徐々に完成しつつある。以上の理由から静水圧効果、置換効果の研究ともにおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は a-YbAlB4 に対して、ピストンシリンダー型の圧力セル(最大圧力 3 GPa)を用いて、今までよりもさらに極低温(最低温 0.04 K)での電気抵抗測定を行う。そして、新しい量子臨界現象や重い電子超伝導などの実験的観測を狙う。加えて、この系は磁場を印可した際、約3.3 Tでフェルミ液体に従わない異常な金属状態が現れる。そこで、この臨界磁場の圧力変化も同時に追うため、実験は磁場中で行う。所属研究室では9 Tまで磁場を印可することが可能であるが、さらに高い磁場が必要な場合は米国国立高磁場研にて、より高磁場での輸送特性を明らかにする。 一方、Mn置換系に対してはさらにMn置換量を増やした系の単結晶育成と物性測定を行い、その高い転移温度の行方を追う。加えてホール効果の測定からキャリア密度を求め、前述の電気抵抗に見られた半金属的な振る舞いに関して更なる知見を得る。 以上のようにYbAlB4系の圧力・磁場・元素置換を詳細に調べることでYb系重い電子化合物の普遍的な相図を完成させる。
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