研究課題/領域番号 |
25887016
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小山 知弘 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60707537)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 磁性の電界制御 |
研究概要 |
本研究は、磁性の電界制御と光学特性の関係を調査することを目的としたものである。主に光学測定系の構築、試料作製、電界印加下におけるファラデー効果の測定の3段階に分けて、順次研究を進めていく。 平成25年度には、高感度なファラデー効果測定系の構築を主目的とした。可視光レーザー、偏光子およびフォトアンプを用いて測定系を組み上げた。さらに光電変換素子2台とスプリッタを組み合わせることで差分信号を取り出し、それを増幅して信号を得るという工夫を施した。試料ホルダー(ペルチェ素子による温度コントロールが可能)および小型マグネット(~100 Oeの磁界を発生可能)を自作し、測定系に組み込んだ。これらの測定系を用いて、膜厚0.4ナノメートルのコバルト(Co)薄膜をテスト試料における磁化反転に伴うファラデー回転角変化を検出することに成功した。さらに、電界印加による保磁力の増減も観測できた。 本研究で重要な点は、室温付近に強磁性相転移温度(Tc)を持つ試料を作製できるかどうかであった。本研究では透明基板を使用する必要があるが、扱いが困難なメンブレン基板ではなくガラス基板上でも垂直磁化Co薄膜が製膜可能であることがわかった。さらに、条件探索の過程で、スパッタパワーを変えることでCo薄膜における電界効果の符号が反転するという現象を発見した。本成果をApplied Physics Express誌に発表した。Coおよび下地プラチナ層の膜厚を最適化することで、室温付近にTcを持つ試料を作製するための条件を見つけることは今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度における本研究の目的は、ファラデー効果測定系の立ち上げであった。研究遂行上の問題点として考えていたのは、薄膜磁性体の微小磁化を検出できる程の高感度な測定系を組み上げることができるかどうかであった。可視光レーザーおよび偏光子のみを用いた場合、シグナルが極めて小さいため検出が困難であった。そこで2台の受光器とスプリッタによる差分信号増幅を用いた結果、薄膜であっても十分に検出可能なファラデー回転の信号強度を得ることができた。 また、本年度には試料作製条件の探索も予定を前倒しして進めることができた。最終目標は室温付近に強磁性転移温度(Tc)を持つ金属強磁性薄膜の作製である。当初は光を透過できるメンブレン基板上に作製する予定であったが、条件探索の過程で、より扱いやすく安価なガラス基板上においても垂直磁化コバルト薄膜を作製できることを発見した。 以上のように、本年度は当初予定していた高感度なファラデー効果測定系の構築に成功しただけでなく、試料作製を効率的に行うためのガラス基板の有効性を確認することができた。それらをもって、本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、磁性の電界制御と光学特性の関係を調査する。主に光学測定系の構築、試料作製、電界印加下におけるファラデー効果の測定の3段階に分けて、順次研究を進めていく。 平成25年度には高感度なファラデー効果測定系の構築を主目的とし、それを用いてコバルト薄膜中のファラデー回転を観測することに成功した。しかし、現状ではノイズが大きいなどの問題があり、薄膜磁性体の微小磁化に対するより信頼性の高いデータを得るためには、ノイズの低減が不可欠である。そこで平成26年度には、適切なアンプ等を選択し、測定系の感度を上げることを目指す。同時に、電界を印加可能な強磁性薄膜を作製するため の条件出しを行う。当初はメンブレン基板上に製膜する予定であったが、透明なガラス基板上でも垂直磁化を有するコバルト超薄膜を製膜できることが判明した。扱いやすく安価であることを考慮して、本年度は主にガラス基板を使用する。室温付近に強磁性相転移温度を持つコバルト薄膜を透明材料上に作製する必要があるため、その条件出しに年度前半は注力する。その後、電界を印加した状態でのファラデー効果の測定に移る。測定時に現 れる不具合を見つけ、測定系・試料作製にフィードバックしながらデータを取得していく。 また、鉄(Fe)やニッケル(Ni)など他の3d強磁性金属にも対象を広げ、材料依存性の調査を通して電界による光学特性制御の背後にある物理的メカニズムの解明を行いたい。 本年度も、研究協力者との緊密な連携を図りながら進めていく。研究期間内の特許出願・論文投稿・学会発表を念頭に置きつつ、期間終了後のより発展的な研究を常に視野に入れながら研究を進める予定である。
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