今年度も引き続き、対称テンソル分解CI (STD-CI) 法の変分アルゴリズムの検討を行った。特に、テンソル分解の階数を増やしてもエネルギーの改善が見られない問題に取り組んだ。この問題が生じている計算について変分計算の進み方を調べたところ、1つのテンソル分解階数が寄与する波動関数の成分のみが相対的に大きくなってしまい、他の成分が実質ゼロになっていることが分かった。このことから、各テンソル分解階数が寄与する波動関数のノルムの制御が重要であることが示唆される。これは、機械学習の分野において、関数に対して単なる直接フィッティングを行うのではなく、ノルムなどに対する罰則項を付加する、いわゆる正則化の必要性に関連していると考える。
一方、共同研究者の植村、杉野と共に、STD-CI波動関数の変分空間を拡張した拡張STD-CI (ESTD)法を開発した。本手法でも上記のような問題が生じたが、各テンソル分解階数ごとに波動関数のノルムが1となるような制約を変分パラメータに加えたところ、安定的に計算出来るようになった。これにより、水分子に対して完全CI計算のエネルギーと倍精度浮動小数点数の数値精度の範囲内で完全に一致する計算を行うことができた。本成果については、原著論文を投稿中である。
昨年からの課題であるスピンや分子構造の対称性の考慮については、文献調査の結果、原子核物理の分野で古くから用いられているgenerator coordinate法がSTD-CI波動関数に対しても有用であると考えるに至った。プログラムへの実装については今後の課題である。
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