研究課題/領域番号 |
25887031
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 康彦 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70581502)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 作用素環 / 従順群 / 分類理論 / Jiang-Su 環 / UHF 環 / 初等的従順群 / 国際情報交換(イギリス、ドイツ) |
研究概要 |
平成25年度の研究成果は主に以下の3件である。① Powers-Sakai 予想の完全解決、 ②トレースを唯一持つ作用素環に対する Toms-Winter 予想の肯定的解決、③初等的従順群に対する Rosenberg 予想の肯定解。 ① 1975 年に Powers と境氏は UHF 環と呼ばれる作用素環に対し、実数体 R による任意の群作用が漸近的内部 (approximately inner) である事を予想した。ここで UHF 環とは研究目的の Jiang-Su 環を構成するために基本的な役割を果たすもので、この環の群作用の研究は Jiang-Su 環自身へ直接応用が期待できる。この予想は長く作用素環の群作用に関する有名な未解決問題として知られ、岸本氏によって漸近的有限次元環に対する反例が与えられていたが、元の UHF 環に対しては未解決であった。松井宏樹氏との共著論文において、我々は最新の分類理論を応用してこの問題の完全解決に至った。これは「研究計画、平成26年度」の実数群R作用の研究について、非常に顕著な結果といえる。 ② Toms-Winter が提出した分類可能な作用素環の特徴付けに関する予想で、現在のC*-環分類理論で最も重要な問題の一つである。元々「研究の目的」[1.4]で上げた松井宏樹氏との共同研究において「トレースの無い場合」もしくは「トレースを唯一持つ、かつ QD」の仮定でこの予想に対する肯定的な解を得ていたが、今回 S. White, W. Winter らとの共同研究で QD の条件を除く事に成功した。 ③ 現在の分類理論において、疑似対角化可能(QD)と呼ばれる性質が基本的な役割を果たしている。このQDについて、1980年代に Rosenberg は従順群から作られる作用素環は QD であると予想した。この問題に対し、私は小沢、M. Rordam 両氏と共に初等的従順群についてこの予想が正しい事を証明した。我々は証明の中で、「研究の目的」で上げた接合積を技巧的に使い成功に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた研究計画では、1年目に離散的な従順群作用の分類を行い、その研究を元に2年目に連続的な群作用の研究を行うとしていたが、この予想を上回り今年度(1年目)で「研究実績の概要、①」の連続的な(実数体の)群作用に関する有名問題を解くことができた。これは研究計画を1年先取りした形の大きな進展といえる。 また、本研究の応用や発展として、当初の研究計画では予定していなかった大きな成果を得た 「研究実績の概要、②、③」。どちらの応用も多くの研究者が研究目的として上げていたもので、本研究の重要な意義を具体的に示す事ができたといえる。特に②の研究成果は作用素環の分類理論における重要問題である。これは本研究の目的の一つである「分類理論の拡張」を目指す上で強固な基盤となる研究であり、将来この方向性で必要不可欠なものとなる。 本研究課題は当初「従順群の作用」に関するものであったが、③の成果により従順群自身の性質を明らかにする事ができた。これは研究題目である「作用素環の群作用の分類」に対する成果のみならず、群論への応用でもある。 年度別の研究計画について、私は25年度に予定していた国外の研究集会で講演を行い、各国の研究者から本研究が興味深いものであると評価頂いた。実際、その研究集会を機にイギリスの S. White, ドイツの W. Winter らと共同研究を行い、顕著な実績②を上げる事ができた。これは研究計画以上の成果といえる。また、研究計画で予定していたコペンハーゲン大学への訪問については M. Rordam 氏より長期滞在の招待があり、現在もコペンハーゲン大学の研究者と情報交換や共同研究が進行中である。特筆すべき成果としては M. Rordam 氏と同大学で共同研究を実現する事ができ、③に関する共著論文を完成するに至った。これらの事から、本研究は当初の計画以上に国外での情報収集が遂行されたと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は昨年予定していなかったコペンハーゲン大学での長期滞在を7月下旬まで行う予定である。この滞在期間中、M. Rordam 氏と情報交換を行い、研究の更なる進展を計画している。また、6月中旬にはトロント大学(カナダ)において作用素環論とその群作用に関する専門的な研究集会があり、私はこれに参加予定である。この研究集会は「研究目的、①」で上げていた Elliott 氏が世話人となり世界中から作用素環の群作用に関する研究者が参加予定である。この機会に同氏と情報交換を行い、研究目標であげていた群作用分類の完成を目指す。 また、8月中旬には 韓国、ICMサテライト研究集会で講演を予定している。この研究集会は私の研究対象であるC*環や群作用のみならず、作用素論、作用素環論全般の研究者が参加予定である。この機会に私の研究に対する意見を伺い、各研究者から様々な視点を得たいと考えている。 9月以降は「研究計画 平成26年度」で上げていたアメリカのパーデュー大学やトロント大学にある研究チームと交流を持ち、本研究に必要な情報交換を計画している。特に、Dadarlat, Elliott 両氏と交流を行い、研究目的で必要な分類理論や接合積の技術を吸収したい。実際すでに パーデュー大学の Dadarlat, Toms 氏らとはメールで連絡をとり作用素環の群作用について議論を行っている。特に Dadarlat 氏は従順群や「研究実績の概要、③」に対する有名な専門家であり、③の成果について同氏と議論を行う事で、更なる研究の進展が期待できる。特に従順群作用、接合積、QD等に関する同氏の技術を吸収し、群作用の分類理論へ応用したい。 また、10月はイギリスのグラスゴー大学で研究集会があり、講演を予定している。この研究集会は25年度に共同研究を行った S. White 氏が世話人をしており、この機会に継続中の共同研究を推進させる予定である。
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