研究概要 |
本研究の目的は、申請者が独自に開発した高精度電流ゆらぎ測定系を用いて、サブミクロンスケールの微小接合におけるスピン依存伝導過程の詳細を明らかにすることである。ここで、スピン依存伝導過程とは伝導電子の電荷だけでなく、そのスピンも伝導において重要な役割を果たすものを指す。 一般に、電流ゆらぎから伝導のダイナミクスを調べるためには、熱による擾乱を避けるために低温環境下で実験を行う必要がある。そこでまず、電流ゆらぎ測定の生命線である低温増幅器の開発を行い、測定系の性能を半導体二次元電子系に作製した微小伝導体(量子ポイントコンタクト)の非平衡電流ゆらぎを測定することで評価した[T. Arakawa et al., APL 103, 172104 (2013).]。その結果、世界有数の高精度、世界最低温の電子温度(20 mK)での非平衡電流ゆらぎ測定を実現した。 非平衡電流ゆらぎの代表的なものとしてショット雑音がある。通常のショット雑音は試料に電流を印加した際に生じる電荷の離散性に起因する電流ゆらぎである。一方で、電子は離散的なスピンの自由度も持っており、これに起因するスピンショット雑音が存在する。本研究では強磁性体/非磁性体接合からなる非局所スピンバルブ素子を用いてスピンショット雑音を実験的に初めて観測し、通常のショット雑音との関連性を明らかにした[T. Arakawa et al., in submitted.]。スピンショット雑音は今後のスピン依存伝導現象に対する新たなプローブとして発展する可能性を秘めている。
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