研究課題
研究活動スタート支援
三角格子やパイロクロア格子、カゴメ格子のように正三角形の基本構造を格子に持つ物質は、フラストレート化合物と呼ばれる。これらの格子上に、反強磁性的相互作用を持つ局在スピンが存在すると、全ての原子上のスピンの向きが一意に決まらないという幾何学的フラストレーションが生じる。同様のフラストレーション効果は、結晶格子を形成する原子の平均価数が非整数となる混合原子価状態においても生じる。最近、系が金属の場合には、このスピンのフラストレーションが伝導電子に影響を与え、電子の有効質量(m*)が通常金属の約40倍に増大する、という特異な現象がLiV2O4というスピネル化合物において見出された。そこで本研究では、超伝導を始めとする「カゴメ金属」状態等の新奇物性の発現を目的とし、スピンや電荷のフラストレーション効果が期待されるカゴメ格子等の結晶格子を有する新しいフラストレート化合物の探索を行った。現在までに、Crがカゴメ格子を形成するYCr6Ge6金属間化合物について第一原理計算と単結晶育成を行った結果、カゴメ格子上の電子系に特有の「平坦バンド」という特殊な電子構造が、フェルミエネルギー近傍に現れていること、またこの平坦バンドの影響を受けて、電子の有効質量がバンド計算値の2倍に増強されていることを明らかにしている。本結果は、これまで理論中心だった平坦バンド研究に対する初めての物質科学的アプローチであり、今後の平坦バンド研究の足がかりとなるものと考えている。さらに、Mnがカゴメ格子を形成するマンガン酸化物に対し、化学的手法を用いてLiドープを行い、Mn価数の減少に伴う電荷フラストレーション状態の実現も試みた。現在詳細な解析を行っているところである。
2: おおむね順調に進展している
初年度において、研究活動に必要な装置の修理や設置、必要な消耗品の購入など研究環境の整備を行い、研究活動を開始した。前年度までに得られた知見をもとに、本年度は遷移金属がカゴメ格子を形成する物質だけでなく、SbやBiなどの価数スキップ元素がカゴメ格子を形成する物質についても物質探索の幅を広げた。
YCr6Ge6はRT6X6の一般式で表される結晶構造を有し、多彩な元素選択性を有すが、4d, 5d元素がカゴメ格子を形成する同構造の物質は知られていない。そこで、R、T、X元素の組み合わせを工夫することにより4d, 5d元素がTサイトを占有するRT6X6の合成を試み、物性評価を行う。またPb, Biなどの価数スキップ元素が電子物性において主体的な役割を演じる物質に着目し、新規物性の発現を目指す。