本研究では、超伝導を始めとする「カゴメ金属」状態等の新奇物性の発現を目的とし、スピンや電荷のフラストレーション効果が期待されるカゴメ格子等の結晶格子を有する新しいフラストレート化合物の探索を行った。現在までに、Crがカゴメ格子を形成するYCr6Ge6金属間化合物について第一原理計算と単結晶育成を行った結果、カゴメ格子上の電子系に特有の「平坦バンド」という特殊な電子構造が、フェルミエネルギー近傍に現れていること、またこの平坦バンドの影響を受けて、電子の有効質量がバンド計算値の2倍に増強されていることを明らかにしている。本結果は、これまで理論中心だった平坦バンド研究に対する初めての物質科学的アプローチであり、今後の平坦バンド研究の足がかりとなるものと考えている。 カゴメ格子上の電子系は、分散をもたない平坦バンド構造を持つことが知られている。しかしながら、この平坦バンドにフェルミエネルギーが一致する化合物の合成例はこれまで報告されていなかった。一方で、平坦バンドにフェルミエネルギーが一致すると、平坦バンド強磁性、分数量子ホール効果、重い電子状態、エキゾチック超伝導といった新規物性の発現が理論的に予想されている。そこで本研究では、平坦バンドがフェルミエネルギー近傍に存在する可能性が指摘されたYCr6Ge6カゴメ金属の超伝導化を目的とした。 様々な元素置換を行ったYCr6Ge6多結晶および単結晶を作製し、物性評価と透過型電子顕微鏡観察を行った。超伝導は見られていないが、YCr6Ge6単結晶においてc’ = c/2の長周期構造が局所的に形成されていることが明らかになった。また高分解能電子顕微鏡観察の結果、この長周期構造の他に10数nm間隔という高密度で反位相ドメインが形成されていることがわかった。この長周期構造を利用した超伝導化を現在進めている。
|