研究課題/領域番号 |
25887049
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 松江工業高等専門学校 |
研究代表者 |
須原 唯広 松江工業高等専門学校, 数理科学科, 助教 (10708407)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 原子核理論 / 原子核構造 / クラスター構造 |
研究概要 |
本課題の目的は、「エキゾチックなクラスター構造を発見し、その出現機構を明らかにする」、ということである。この目的の前半部分に対する成果として、2つのエキゾチックな構造を発見した。 ひとつは中性子過剰な9Li原子核においてα+tクラスター構造が発達し、そのまわりの分子軌道に余剰中性子がつまる、という構造であった。これは2αクラスター構造が発達し、その回りで分子軌道が構成され、その軌道を余剰中性子が占有する、という構造で理解できるBe同位体と類似していた。この成果は非α粒子を構成要素とするクラスター構造においても、分子軌道が形成され得ることを示唆しており、出現法則確立の上で、手がかりとなる。またこれらの構造が、非弾性散乱の角度分布に影響を与えることも示した。 もう一つは、12C、16Oの励起状態において現れると期待されているリニアチェイン構造に対する発見であった。リニアチェイン構造はαクラスターが直線状に並んだ構造を持ち、実験、理論の両面から半世紀程度議論されている重要な研究対象である。この構造は伝統的に局在した構造を持つと考えられてきたが、実はαクラスターが一次元上でα凝縮した構造を持つ、ということを示した。12C、16Oは安定核であるものの、原子核における一次元α凝縮構造は申請者らによって初めて提唱されたものであり、非常に重要な発見と言える。この結果は伝統的に局在していると考えられていた多くのクラスター構造が、実は非局在の描像で理解しなければならない可能性を示唆しており、クラスター物理の新しい局面を開き得る成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた16Cの構造については大きな進展を得られなかった。これは、余剰中性子が多くなると、余剰中性子の配位の取り扱いが困難になり、今まで用いてきた手法である反対称化分子動力学では、高い励起状態の中に記述できない状態が現れてくるからである。 一方で想定外の進展があった。特にリニアチェイン構造が一次元α凝縮した構造を持つ、ということを示した成果は原子核物理においてまったく新しい成果であり、非常に重要な発見をしたといえる。この結果は伝統的に局在していると考えられていたクラスター構造が、実は非局在の描像で理解しなければならない可能性を示唆しており、クラスター物理の新しい局面を開き得る成果である。 このような大きな結果をあげられたことと、当初の予定を達成できていないことを合わせて「おおむね順調に進展している」と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は16Cの構造について確実な結果を出せるように注力する。反対称化分子動力学を用いて構造計算を行うと16Cでは2つのエキゾチックな構造(ガス的構造とリニアチェイン構造)が現れるが、これらの構造の安定化機構を解析する。これらの構造は反対称化分子動力学を用いた計算では、かなり安定した構造として現れるので、これらの構造に限って研究を進めることにする。 まずリニアチェイン構造であるが、拡張した分子軌道模型を用いて中性子の配位に対する曲がりのモードに対する安定性を調べる。16Cのリニアチェイン構造は12Be+αクラスター構造を持っているが、この12Beについた余剰中性子とαクラスターの中の中性子との反対称化の効果により曲がりのモードが阻害される効果が存在する可能性がある。またガス状態はその状態の正確な記述のためには多数の配位の重ね合わせが必要であるが、現時点の計算ではこれが不十分であることがわかっている。これを達成するためにStochastic法を採用する。この方法は、多数の配位を重ねあわせるときに、確率的手法を用いて、記述しようとしている系に対して重要な配位だけを効率よく取り出す、という手法である。この方法は昨年度の一次元α凝縮構造の研究において、ガス的なクラスター構造の記述に対して有用であることを確認している。 これを達成し、昨年度の成果と合わせて、エキゾチックなクラスター構造の出現法則について知見を与える。
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