研究実績の概要 |
振動和周波発生分光法(SFG分光法)は試料に赤外光(ωir)と可視光(ωvis)を同時入射し和周波光(ωir+ωvis)を得る、2次の非線形光学効果に基づく振動分光法である。単分子層の検出感度を持ち、かつ異方的に配向する分子を選択的に検出するため、界面の原子・界面に吸着した分子の観察に適している。ラマン分光法では、通常微弱なラマン散乱光を検出しているが、金属ナノ粒子を作用させることで局在表面プラズモンによってシグナルを増強させることができる(表面増強ラマン散乱)。局在表面プラズモンによるナノ粒子表面の電場増強が、近傍の分子の双極子が増大させ、ラマン散乱が増強するといった仕組みである。ラマン分光・SFG分光共に光照射により分極した分子からの双極子放射を観察するものであるため、SFG分光においてもラマン分光と同様にナノ粒子による増強電場を利用すればシグナルの増大が期待できると予想した。本研究ではより強い電場増強を得るために、ナノギャップを利用した。具体的には、パラメチルベンゼンチオールの単分子膜で被覆された金平面上に金ナノ粒子による二次元配列を形成させ利用した。金ナノ粒子にも金平面にも表面プラズモンが誘起されるため、その間隙に生じるナノ空間では電場増強がより一層増幅されることが知られている。この構造を利用し、630, 680, 720, 780 nm励起により振動和周波発生スペクトルを測定した。ラマンの増強度は532 nm励起で250、647 nm励起で104と見積もられた。これに対し、振動和周波発生のシグナルの増強度はより小さく、最大でも5であった。我々はこの小さい値は振動和周波発生過程のコヒーレント性にあると予想している。
|