研究課題/領域番号 |
25888012
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
浅野 圭佑 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90711771)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 二官能性有機分子触媒 / 生体酵素 / 水素結合 / 共有結合性相互作用 / ラクトン合成 |
研究概要 |
硫黄原子求核剤による不斉マイケル付加反応はキラル含硫黄化合物を合成するための有用な手法である。しかし、これをα,β-不飽和エステルに対して直接行うことは難しい。つまり、エステルを基質としたとき非共有結合性相互作用のみに依存する不斉触媒では不斉誘導に効果的な活性化が行えない。そこで今回、同様の含硫黄エステル化合物を高エナンチオ選択的に直接合成できる全く新しい触媒プロセスとしてω-ヒドロキシ-α,β-不飽和チオエステルの異性化反応を設計した。 検討の結果、アミノチオウレア触媒の作用によりω-ヒドロキシ-α,β-不飽和チオエステルが異性化し、β-メルカプトラクトンが高立体選択的に生成することを見いだした。この反応はアシルアンモニウム中間体を経由し、アミノ基による共有結合を介したマイケル受容体の活性化とチオウレアによるアニオン性求核剤との水素結合形成が協働的に作用して、効果的な不斉誘導を実現している。 さらに速度論的解析により、本反応のエナンチオ選択性が活性化エントロピー項に支配されていることも明らかにした。そこで、幅広い溶媒での反応を調べた結果、ある特定の溶媒を用いたときだけ生成する主エナンチオマーの立体が逆転することも明らかにした。この時のエナンチオ選択性は活性化エンタルピー項に支配されており、エナンチオ選択性の逆転は活性化ギブズエネルギー差を小さくする主な因子がエントロピー項からエンタルピー項に変化したことによるものと結論付ている。 また本反応では、チオールを共存させておくと、基質から脱離したチオラートアニオンとプロトン交換して、共存させていたチオールが付加した生成物のみが選択的に得られることも見いだしている。これを利用すれば、β位に付加する求核剤の種類をさらに大幅に拡張できる可能性がある。 ここまでに得た研究成果に関しては既に学会での発表および論文による公表を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
触媒や基質の構造および反応条件の最適化を行い、求核種の適用範囲を一部明らかにするところまで研究は進んでおり、2013年度に予定していた計画はほとんど遂行することができた。また、計画にはなかったが、温度検討において温度上昇に伴い生成物の鏡像体過剰率が向上するという興味深い現象を見いだしたことをきっかけに、速度論的解析を行った結果、本反応のエナンチオ選択性はエントロピー項に支配されているという事実も明らかにすることができた。これにより溶媒を変えるだけで、エナンチオ選択性が逆転させられることも実証でき、本手法の合成化学的な有用性および潜在的な可能性を大幅に拡張することができた。このため、研究は当初の計画以上に進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
共存させる求核剤を単純なチオールから2-アミノチオフェノールに替えて反応を行うことで、同様の反応機構により代表的な天然物・医薬品骨格の一つである1,5-ベンゾチアゼピンを直接与える反応の開発を目指す。また、硫黄原子求核剤に替えて酸素原子や窒素原子の求核剤も検討する。酸性度や求核力の観点から、酸素原子求核剤にはオキシム、窒素原子求核剤にはアジ化水素が有望と考えている。 さらに、触媒プロセスの後半部分にあたる環化段階の促進を狙った設計により新たな触媒を開発し、中・大員環ラクトンの合成も検討する。マイケル付加の段階までは、5員環および6員環の合成と本質的には変化がないため、ここまでに最適化した触媒活性部位を大きく変えてしまうと不斉収率の低下を招く危険性がある。したがって、電子的に活性化するのではなく、活性中心を取り囲むようにデンドリマー状置換基などを導入して適度な大きさの反応場空間を作り、この中で反応点同士を接近させることで環化を促進させる。これは大環状ラクトン合成酵素を模倣した設計になっている。また、中員環合成では副反応としてよく問題になる分子間反応に関しても、触媒のポケット構造により他の分子の接近を抑制できると期待できるため、高希釈条件を用いることなく制御ができるものと考えている。
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