研究実績の概要 |
本年度は、前年度までに蓄積した知見を活かして、α,β-不飽和アシルアンモニウム種と2-アミノチオフェノールとの形式的環化付加反応による1,5-ベンゾチアゼピンの不斉合成に取り組んだ。1,5-ベンゾチアゼピンは医薬品骨格の代表格であり、中でも今や世界100カ国以上で利用されているジルチアゼムは特に有名で、日本発で世界的に有名になった最初のくすりとも言われているが、その発見にはランダムスクリーニングの導入が大きく寄与している。すなわち、多様な1,5-ベンゾチアゼピンの迅速不斉構築法は、医薬品探索を行ううえで重要な技術になる。そこで、一挙に環構築ができる環化付加反応が魅力的である。 検討の結果、α,β-不飽和カルボン酸誘導体に有機求核性触媒であるキラルイソチオウレア触媒を作用させると、α,β-不飽和アシルアンモニウム種が発生し、形式的な環化付加反応が完全な位置選択性と高いエナンチオ選択性を伴って進行することを見いだした。反応機構解析の結果、エナンチオ選択性はサルファマイケル付加の段階ではなく、アミド形成による環化の段階で主に決定されていることが分かった。すなわち、マイケル付加の選択性が生成物の選択性には直接反映されず、環化の際に不利なコンホメーションを持つ中間体が原系に戻って再度マイケル付加をすることで高い選択性を生み出していることが強く示唆された。このようにサルファマイケル付加の可逆性が選択性を支える本反応では、基質の電子的および立体的な特徴が反応にはほとんど影響せず適用範囲は幅広い。すなわち、本反応は当初の研究目的である迅速ライブラリー構築に適しており、今後、創薬分野において貢献が期待できる。 また、上述のような反応機構のため、他の置換形式の誘導体の合成にも展開できる可能性が高く、その礎となる本研究成果の意義は大きい。これまでに得た研究成果に関しては既に学会での発表および論文による公表を行っている。
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