研究課題/領域番号 |
25888016
|
研究種目 |
研究活動スタート支援
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
小島 広孝 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 特任助教 (70713634)
|
研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
|
キーワード | 分子動力学 / フラーレン / ゼーベック効果 / 熱電変換 / 廃熱利用 / 再生可能エネルギー |
研究概要 |
近年精力的に行われている熱電変換材料研究において、実用化を指向した材料開発を行うことが早急に求められる。これまでに行われた物質探索から見出された特異的な熱電特性を示すフラーレンについて、計算化学的手法を用いた原因解明と次世代材料設計へのフィードバックが本研究の主目的である。 平成25年度は、数百分子以上を包含するバルク構造に対して分子動力学(MD)計算を行うことのできる計算基盤を整えるため、GPGPUを搭載したLinuxマシンを導入し、分子動力学計算パッケージGromacsを導入した。結晶構造を基にフラーレン500分子を包含するバルク構造をモデリングし、得られた安定化構造に対して回転相関関数を概算した。計算時間に対して回転相関関数は高温ほど早く減衰し、またある閾値温度から大きな変化を示す様子が確認できたため、熱エネルギーによって球体分子であるフラーレンの回転運動モードが大きく変調されていることが示唆された。 計算と併せて、これまでに得られている実験結果の信頼性を確かめるために、再現実験を複数回行い、フラーレンが突出した熱電効果を示すことが再度確認された。また、ゼーベック効果の温度依存性を評価するため、ベース温度を300K~360Kの範囲で変化させ、各温度で温度差を与えて熱電測定を行った。その結果、温度によって異なったゼーベック係数が観測された。実験と計算の両面から、来年度に向けた精度の高い研究を行うための基礎的な知見が得られたと言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度に導入したLinuxマシンの選定と納品に時間を要したため、十分な計算量が得られず、理論的考察が若干遅れている。特にGPGPUを駆使した演算を円滑に行えるように環境設定するために時間を要した。しかし現在までに計算環境の整備はおおむね済んでおり、来年度の計画進行には大きく差し支えないと考えている。 実験については装置トラブルなどに見舞われ、十分な実験時間が確保できなかった。現在これらはおおむねクリアされ、また装置改良によるオペレーションの改善も済んでいるため、来年度の実験には差し支えないと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに行われた種々の材料に関する研究から,アルキル鎖のようなやわらかい部位を導入することで大きなゼーベック係数が得られる可能性が示唆されている.そこで,真球であるC60に置換基を導入した[60]PCBMのような化学修飾されたフラーレンについて熱電特性を評価することで,回転運動の制限とゼーベック係数との相関を考察する.無置換フラーレンの結果と比較することで,やわらかい置換基が熱電特性にどの程度の影響を与えるのかを調べる. これらの測定は研究室所属の院生(1名)と分担して行う. また、熱電測定を行ったフラーレン類縁体についての電界効果トランジスタを作製する.観測された電気特性を熱電測定の結果と比較することで,電界によるキャリアドーピングの効果を評価する.また,温度依存性についても検討する.仮に温度変化によって伝導特性に急峻な変調が観測されれば,フラーレン薄膜の状態が相転移したと解釈できる.この場合,薄膜内の分子配向が変化している可能性が高く,フラーレン薄膜についてX線回折や放射光施設を利用した結晶構造評価を行い,本質的性質を明らかにする. 実験と併せて、フラーレン類縁体の結晶構造を基にエネルギーバンド計算を行う.薄膜構造に基づく計算結果と比較し,一様な分子配向を仮定した場合の熱電特性を評価する.バンド分散からは荷電粒子の有効質量を求める.また,バンドの縮退から荷電時のフェルミ準位の変化を考察し,バンド端の状態密度の傾斜からゼーベック係数の大きさを見積もる.状態密度は熱電特性と相関があることが知られている(D. Wang et al., J. Chem. Phys. 131, 224704 (2009).).さらに,電子とフォノンの相互作用を加味した変形ポテンシャルを適用し,温度などの条件によるバンド構造や物性値の変化の再現を検討する.
|