二酸化炭素を石油に代わる炭素源に利用した高分子合成法にエポキシドとの交互共重合によるポリカーボネート(PC)の合成がある。この研究領域では、二酸化炭素と共重合可能なエポキシドの探索および高効率な金属錯体触媒の開発が精力的に行われてきた一方で、高分子のトポロジーを組換える研究展開には目立った進展がみられなかった。本研究課題では、PCのトポロジーの組換えによる新物性・機能の開拓を目指し、分子鎖末端の消失した環状PCおよび多数の分岐点・分子鎖末端を有するグラフト型PCを合成した。 平成25年度において、両末端官能性直鎖状ポリプロピレンカーボネート(PPC)の分子内反応により環状PPCの合成に成功した。また、ポリアクリル酸(PAA)を開始剤とする二酸化炭素とプロピレンオキシドの交互共重合により、PAAを幹鎖、二酸化炭素由来PPCを枝鎖とするグラフト共重合体(PAA-graft-PPC)の合成に至った。 平成26年度は、合成の最適化を図るとともに環状PPCおよびPAA-graft-PPCの物性を調べた。一般にPPCは、環状炭酸エステルの生成を伴うバックバイティング反応によって熱分解する。両末端官能性直鎖状PPCの熱分解温度(Td)は既報と対応する220 °C程度であった一方、環状PPCのTdは280 °C程度であった。すなわち、環構造はPPCの熱安定性を大幅に向上させることを見出した。続いて共重合条件を最適化し、PAA-graft-PPCの分子量を数百万から数千万程度の範囲で制御することに成功した。また、原子間力顕微鏡によりPAA-graft-PPC一分子の観察に成功し、これらが数十nm程度の楕円体状の形態を持つことを明らかにした。さらにPAA-graft-PPCは直鎖状PPCと同程度のTdを示したことから、熱分解性ナノ粒子としての有用性が示唆された。
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