研究課題/領域番号 |
25888023
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 将己 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20712293)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 錯体化学 / 電子状態 / 触媒・化学プロセス |
研究概要 |
本課題では、自然界および工業プロセスにおいて最も重要な反応である酸化反応を温和な条件下・低電位で進行させる新奇な触媒システムの構築を目指している。特に、酸化反応の鍵中間体であるオキソ錯体の反応性制御に着目し、不活性小分子を金属錯体で活性化・光活性化するための新奇な方法論の開拓を試みている。 前年度、オキソ配位子によって架橋されたルテニウム二核オキソ錯体の合成に成功し、この二核オキソ錯体が特異的な電子構造をとり、架橋オキソ配位子が非常に穏やかな条件下で酸化反応性を示すことを見出した。この結果は、一般的にルテニウム錯体の場合は不活性である架橋オキソ配位子を活性化した新奇な酸化反応として非常に興味深い。 新規ルテニウム二核オキソ錯体は、前駆体となる単核錯体を化学量論量のセリウム(IV)で酸化することで合成に成功した。紫外可視吸収スペクトル、ESRスペクトル、単結晶構造解析などを用いてこの錯体の電子構造を検討したところ、ルテニウム原子上の電子が大きくオキソ配位子上へと非局在化した電子構造であることが判明した。これは、この錯体が比較的低電位で生成しているのにもかかわらず、架橋オキソ配位子が高い反応性を示すことを示唆する結果である。実際にこの錯体をアルコールと反応させたところ、速やかに錯体の一電子還元が進行し、アルコールが酸化されたことが示唆された。 一方、反応性に関する成果に加え、このルテニウム二核オキソ錯体の特異的な電子構造は物性化学の面からも非常に興味深い。実際に、この電子構造の解明はルテニウム錯体の電子状態・反応性に関する研究の大家である米ノースカロライナ大のT. J. Meyer教授からも非常に高い評価を得ている。 以上のように、本課題では低電位で酸化反応を速やかに進行させるルテニウム二核オキソ錯体の発見に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は前年度までに、温和な条件下で速やかにアルコールを酸化できるルテニウム二核オキソ錯体の開発に成功した。この系は、通常ルテニウム錯体の場合は不活性である架橋オキソ配位子を効率的に活性化し、低い電位で速やかに酸化反応を進行させる興味深い反応系である。この反応系は効率的かつエネルギー消費の少ない環境適合型の物質変換反応の基礎研究として非常に意義深く、このような新概念の錯体系を世界に先駆けて見出した重要度は極めて大きい。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに、申請者は効率的に酸化反応を進行させるルテニウムオキソ錯体の開発に成功した。今後は、この錯体の反応機構の詳細解明を推進するとともに、強力な電子ドナー性配位子であるシクロメタレート配位子を導入し、その反応性および光反応性に対する影響を検討を行う。 具体的には、反応機構解明は紫外可視吸スペクトルの測定を足掛かりにし、各種反応速度論解析を行うことで、反応の鍵となる律速段階の解明を行う。また、シクロメタレート配位子の導入した新規ルテニウム二核オキソ錯体の合成も行い、反応性の比較を行う。さらに、これらの錯体は光励起によって金属-オキソ間の結合が弱められ、反応性が増すことが期待されるので、光反応性についても検討を行いたい。 これらの比較検討を通して、酸化触媒反応を左右する鍵因子を見出し、高活性触媒開発の礎としたい。
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