本研年度は、500度超に融点を持つAl-Si系合金PCMの開発を目的とした。具体的には、①Al-Si系合金の熱物性調査、②Al-Si系合金と代表的耐熱材料との腐食性試験を実施した。 ①Al-Si系合金の熱物性調査:Siは融解時の体積膨張率が負(-9.6%)のため、合金元素として添加することで、PCM候補材の融解時体積膨張率を低く制御可能であり、PCMとしての実用上極めて有利となる。そこで、本研究ではAl-12wt%Si、Al-17wt%Si、Al-20wt%Si、Al-25wt%Si、Al-30wt%SiをPCM候補として、その蓄熱性能を測定した。その結果、共晶組成近傍のAl-12wt%Siの潜熱量は0.5 MJ/kgであり、PCMとして極めて有望であった。また、過共晶組成であるAl-25wt%SiとAl-30wt%Siの蓄熱量可能量500度から800度の範囲で測定したところ、1MJ/kg以上の値を示した。過共晶領域では、温度の降下と共に連続的にSiの初晶が析出するため、この結晶化潜熱が液相、固相の比熱に上乗せされ、見掛け上大きな比熱として観察される。従来のPCMは液体比熱が小さく、融点または共晶点付近での蓄熱のみに温度範囲が限定されていた。一方、過共晶領域にまで組成範囲を広げることで、より広い温度範囲で効率的に高密度蓄熱が可能となることが明らかとなった。 ②Al-Si系合金と代表的耐熱材料の腐食性試験:Al-Si系合金SiとAl2O3、SiCとの腐食性を、真空雰囲気下で、1000度の合金溶湯中に、試験片を100h浸漬することで評価した。Al-Si系合金PCM候補として、Al-25wt%Siの他にAC9A、ADC12等の規格合金も検討した。その結果、Al2O3は検討した合金PCM候補に対して腐食されず、PCM用の構造材として極めて有望であった。
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