研究課題/領域番号 |
25889008
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小助川 博之 東北大学, 流体科学研究所, 助教 (00709157)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 炭素繊維強化プラスチック / 複合材料 / 強誘電性 / 圧電性 / ポリフッ化ビニリデン / 拡散 |
研究概要 |
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の欠陥を非破壊的に検出する方法として、炭素繊維の導電性を利用したポテンシャルドロップ法が考えられている。しかし、CFRPの層間の電気抵抗が高いことから、この方法では深部における剥離を検出することが困難であるという問題がある。本研究は、CFRPのマトリクスに強誘電性ポリマーを配向結晶化させることで圧電性を付与し、自己発信により深部剥離を非破壊的に検出する技術の開発を目的とする。 本研究のキーポイントは、マトリクス内部における強誘電性ポリマーの配向結晶化である。当該年度では、まず最初に強誘電性ポリマーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)をCFRP内部に含浸させる方法の模索から始めた。直径0.2マイクロメートル程度の球形のPVDFパウダーを用意し、これをエポキシ主剤に混入した後、硬化剤とともに撹拌・脱泡を行い、炭素繊維シート間に滴下した。滴下後ただちに、熱プレス機を用いてPVDFの融点以上の温度下、10MPaの圧力下で30分間含浸と硬化処理を行なった。得られたCFRP内部の元素分析を、エネルギー分散型X線分析を用いて行なったところ、PVDFがCFRP中に拡散している様子を確認できた。ここで、フーリエ変換型赤外分光法を用いてCFRP中に存在するPVDFのスペクトル解析を試みたところ、α型結晶由来のピークが観測され、β型とγ型結晶由来のピークはほとんど観測されないことを確認した。すなわち最も効果的に圧電性を示すβ型結晶を得るためには、加熱と加圧処理だけでは不十分であるということが判明した。 また、CFRP内部におけるPVDFナノ粒子の拡散を理解するために、PVDFと同程度の形状を有する酸化チタン粒子を用いた、ナノ粒子拡散の定量分析を行なった。これにより、CFRP中におけるナノ粒子の分散は、移流よりも粒子の拡散性に依存することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度の目標は、CFRP内部へのPVDFの含浸と配向結晶化の方法の確立であった。PVDFの含浸については、ナノ粒子として硬化樹脂に含ませ、熱プレスや真空樹脂含浸製造法(VaRTM)を用いてCFRP内部へ拡散させることに成功した。しかし、配向結晶化については十分ではなく、圧電効果に寄与するβ型結晶を得る方法の確立まで至らなかった。CFRP内部におけるPVDFの拡散については、酸化チタンナノ粒子を用いた拡散分布の定量的解析からその知見を得ることができたので、今後は拡散後の配向結晶化の方法について検証していく。
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今後の研究の推進方策 |
PVDFの配向結晶化には、直流高電圧を利用するポーリング処理が必要になるものと考えられる。ポーリング処理は、高分子が溶融している状態で行う方が効果的なので、PVDFの融点である170℃以上で行う。ただし、熱硬化性樹脂をCFRPの母材とする場合、前述の温度条件では、PVDFの分極が十分に達成される前に樹脂が硬化し、十分な圧電性を得られない可能性がある。そこで、今後の方針として以下の2点を検討している。 1. 熱硬化性樹脂の主剤とPVDFを溶媒法により溶融させてポリマーブレンドとし、硬化剤を加えた後、ただちにポーリング処理を行う。2. PVDF相溶系の熱可塑性ポリマーブレンドを合成し、これを炭素繊維に含浸させポーリング処理を行うことで、熱可塑性樹脂を母材とするCFRPを得る。 1の方法は熱可塑性樹脂の主剤とPVDFを相溶性の溶媒で撹拌すること、硬化剤添加から硬化までに十分なポーリング処理ができるかどうかが鍵となる。2の方法では熱硬化性樹脂ではなく熱可塑性樹脂を母材とするCFRPにターゲットを移すことになるが、次世代のCFRPとして潜在性のある熱可塑性CFRP(CFRTP)への機能付与は意義のある目標である。ただし、ポーリング処理を高温条件で行う必要があるので、そのための装置の開発を行う必要がある。 圧電効果の高いPVDFの配向結晶化をCFRP内部で実現することが本研究のキーポイントであるので、上述の内容は本研究において特に注力する部分である。配向結晶化を実現した後、速やかにCFRPの力学的特性の評価と深部剥離検出の検証に移行する。
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