炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の深部に生じる層間剥離などの欠陥を早期にかつ非破壊的に検出する方法が求められている。本研究は、強誘電性高分子を用いてCFRPのマトリクスに圧電性を付与することで、深部剥離を自己センシングするCFRPの開発を提案するものである。 前年度では強誘電性高分子であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)のナノ粒子を真空樹脂含浸製造法(VaRTM)を用いてマトリクス内部に分散させた。この方法は、炭素繊維と樹脂の接着強度を高めることができ、CFRPの曲げ強度と曲げ弾性率をおよそ20%程度向上させることが分かった。しかし、この方法では圧電効果を最も効率良く発現できるβ型結晶を得ることが困難であることが判明した。そこで本年度では、マトリクスを全てPVDFとするプリプレグ(CFRPの中間基材)を作製し、これにβ型結晶化と分極処理を施すことで圧電性を付与することを主目標とし研究を遂行した。 まずマトリクスであるPVDFをβ型結晶に維持したまま炭素繊維と接着させる方法として、高温環境下でPVDFフィルムに350%程度の引張ひずみを与えて機械的に分子を配向させた後、高温条件で圧着させることで炭素繊維と接着させる方法を考案した。フーリエ変換赤外分光法により、この方法によってβ型PVDFを母材とする炭素繊維-PVDF複合フィルムを得ることが可能であることが分かり、炭素繊維とPVDFマトリクスの接着も十分であることを確認した。 得られたβ型炭素繊維PVDF複合フィルムを100℃のシリコンオイルの環境下で最大30kV/mmの直流電圧を用いて分極させた。得られたフィルムの圧電定数を測定し、さらにひずみを与えた時のフィルムに発生する電荷をチャージアンプを用いて計測し、圧電性を有するCFRPのプリプレグの作製が可能であることを確認した。
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