研究課題/領域番号 |
25889014
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白岩 隆行 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (10711153)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 疲労 / 電子タグ / 構造物ヘルスモニタリング / センサネットワーク / 無線センサ / 疲労き裂進展 / Paris則 / 有限要素解析 |
研究概要 |
本研究の目的は、社会基盤構造物の安全監視を実現するために、疲労損傷を記憶する新しい無線センサタグを提案することである。基本的なセンサ原理としては、疲労損傷の累積に伴い電子タグのメモリ部分が順々に破壊されることにより、記録データが変化し、それをRFIDの技術で読み出すことで疲労損傷度を計測するものである。これまでに様々な疲労監視技術が提案されているが、新規の計測システムへの置換には莫大な予算が必要となるため、適用できる範囲が限られる。そこで本研究では、最近の無線タグ技術を応用することで、実際の現場で簡便に使用でき、非常に経済的な疲労センシング技術の構築を目指す。本年度は、タグの構成や形状、基板に用いる材料について検討し、センサタグ単体に疲労荷重を与えることで、考案した原理に基づき疲労損傷の検出が可能であるか検討した。粒径の小さな電着銅や、パルス電着によって作製したニッケル箔を用いることで、基板の疲労き裂進展におけるばらつきを小さくできることが示された。また、基板のき裂進展量を無線で送受信するための仕組みとして、電気抵抗膜を用いる方法を提案した。有限要素法による電位場解析によって、き裂長さと電気抵抗変化率を計算し、最適な膜形状を導出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究計画に従い次の4項目について、研究を進めた。(1) 疲労センサタグの設計・作製、(2) 損傷記憶の理論的考察、(3) 構造材料への貼付と疲労寿命の予測、(4) センサタグの接着方法に関する検討、の4項目である。 (1)については、疲労センサタグの基板材料について検討を行い、実験的・数値解析的手法によって、電着銅や電着ニッケルが適していることが示された。(2)については、有限要素法による電位場解析によって、き裂長さと電気抵抗変化率を計算し、最適な膜形状を導出することに成功した。また疲労き裂進展則として、Paris則の代わりに、Klesnil-Lukasの関係式やKohoutの式を用いることで、評価可能な応力範囲を拡大できることを示した。(3)については、主に溶接部の疲労損傷に対して、検討を進めた。センサタグによって計測される応力振幅・疲労負荷回数と、累積損傷則における等価応力振幅の関係について評価した。(4)については、スポット溶接による固定と接着剤による固定について検討し、それぞれの方法でセンサを固定した鋼材に対して疲労試験を行った。スポット溶接による固定では変位制御試験と同様の結果が得られ、接着剤による固定ではひずみ伝達率を考慮することで、疲労負荷回数の推定に成功した。 また、当初の計画では来年度に行う予定であったが、無線計測部分についても研究開発を進め、低消費電力のバッテリー付きタグを用いて、き裂長さを精度良く検出できることが示された。以上のように、おおむね当初の研究計画通り、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、センサタグの高精度化、無線センサネットワークの構築、構造物の劣化損傷度の直接的評価を行う。センサタグは、カバーを除いて、すべてフォトリソグラフィ等の微細パターン技術によって作製可能である。そこで前年度の結果をもとに、形状の最適化を行い、さらにタグ全体の寸法を5 mm×5 mm程度にまで小さくし、利便性を高めることを検討する。また、多数のセンサタグから構成される無線センサネットワークの構築を行う。電子タグのネットワーク構築が計画通りに進まない場合には、ZigBee等の低消費電力の無線通信規格を用いて、アクティブ型電子タグを作製し、長期間の連続使用可能なセンサネットワークの構築を試みる。さらに3Gでインターネット等に接続することで遠隔地モニタリングを可能とする監視システムを構築する。上記のセンサネットワークを実際に供用中の橋梁等へ適用し、実用化への指針を立てる。また腐食環境下など多様な条件における寿命予測にも対応できるように、ACM型腐食センサや電気抵抗式腐食センサなど、他のセンシング手法と組み合わせて使用する。それらの計測結果を材料の腐食疲労データベースに照会することで、構造物の劣化損傷の直接的評価を試みる。さらに点検・補修など履歴管理のための電子タグと組み合わせて使用することで、より効率的な寿命管理システムの構築を検討する。
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