構造用セラミックスは一般に多結晶体として用いられ、その強度特性は結晶粒同士の継ぎ目である粒界と密接に関連している。多結晶体に含まれる微量の不純物元素は粒界に選択的に分布(偏析)することが多く、そのような不純物元素は粒界の物性を変化させると考えられるが、粒界の強度特性に対する不純物元素の影響については十分に解明されていないのが現状である。そこで本研究では、透過型電子顕微鏡(TEM)その場インデンテーション法と原子分解能走査型TEM法により、代表的構造用セラミックスであるアルミナの粒界強度特性に対する不純物元素の影響を検討した。 熱拡散接合法によりジルコニウムを添加した{1-104}/<11-20>Σ13粒界を含むアルミナ双結晶を作製した。双結晶をTEM観察用薄膜試料へと加工した後、粒界原子構造を走査型TEMによって解析した。解析の結果、粒界にはジルコニウムが3原子層に渡ってほぼ均一に偏析していることが分った。この試料に対しTEM内にて粒界と平行にインデンターチップを挿入した。インデンテーションの結果、亀裂が粒界に沿って導入され、また結晶粒内には転位等の欠陥の形成を示すコントラストは認められなかった。次に、亀裂先端付近の原子構造を走査型TEMによって詳細に解析した。亀裂部分においては主に2原子層のジルコニウムが両結晶上に残留していることが確認された。これは、3原子層のジルコニウムが両結晶へほぼ均等に分離したと解釈でき、本粒界における破壊パスはジルコニウム層内であったことを示している。また、結晶粒内には構造の乱れは確認されなかったことから、粒界に導入された亀裂はアルミナの結晶粒内に変形もしくは破壊を引き起こす応力よりも低いレベルで進行したと考えられる。本研究より、Σ13粒界におけるジルコニウム-酸素結合は結晶粒内におけるアルミニウム-酸素結合よりも結合強度が弱いことが示唆された。
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