研究課題/領域番号 |
25889019
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
寺野 元規 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (90708554)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 機械工作・生産工学 / 金属生産工学 / 結晶工学 / 精密部品加工 / 構造・機能材料 |
研究概要 |
本年度は①せん断ひずみによる結晶方位制御が実現可能かの検討を行い,②円周方向にせん断ひずみを導入するためのバニシング加工装置を開発し,加工条件を選定した.材料は,純鉄板(99.99%Fe)を用いた.試験前に,圧延によるひずみを除去するため,700℃で1時間,アルゴン雰囲気下でひずみ取り焼鈍を行った. ①のせん断ひずみによる結晶方位制御の検討については,せん断加工+熱処理試験を実施する事により検討した.せん断加工試験後,熱処理条件(700℃~900℃,1時間)を変えて試験し,断面における結晶粒の大きさ,結晶方位分布をEBSD分析により調べた.その結果,せん断加工により導入されたせん断変形(せん断ひずみ)と熱処理(焼鈍)により,ある特定の結晶方位を持つ結晶粒が成長する傾向が観察された.したがって,せん断加工と熱処理を併用すれば,結晶粒(再結晶粒)の結晶方位を制御できる可能性が示唆された. ②のバニシング加工装置は円周方向に均一なせん断ひずみを付与できる装置として設計・製作した.モーター鉄心内の磁力線はその大部分が半径方向および円周方向に向いており,磁化容易軸(<100>方位)も半径方向および円周方向に配向させるのが理想である.①のせん断加工+熱処理試験により,結晶方位制御の可能性を示したが,鉄心に適用するためには円周方向に均一なせん断ひずみを加える必要があり,バニシング加工を選定した.バニシング加工は表面を滑らかにする加工法であるが,ここでは,通常よりも大きな加工荷重を加えることにより,試験片内部にもせん断ひずみを付与できるように設計した.また,加工条件(加工荷重,潤滑剤)により表面性状が異なるため,表面性状が良好となる条件を選定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
せん断ひずみによる結晶方位制御の検討に時間を費やし,進捗が遅れた為,直線方向のバニシング加工実験ではなく,円周方向のバニシング加工装置の開発を行った.せん断加工装置の調整,実験,実験後の試料観察(特にEBSD分析)に時間を費やし,バニシング加工装置設計のための基礎データ測定が遅れてしまった.EBSD分析においては,本学共通利用できる装置の精度が悪化したため,外部のEBSD分析装置を利用したため,予想よりも時間を費やしてしまった.この遅れを取り戻すため,本来,H26年度行う予定の円周方向のバニシング加工を前倒しで試験した.当初では直線方向のバニシング加工装置を開発し,円周方向のバニシング加工のための加工条件を決定する予定であったが,実験計画の進捗の遅れを鑑み,円周方向のバニシング加工装置を開発し,実験に取り組んだ方が良いと判断した.そこで,加工方向が直線方向ではなく,円周方向のバニシング装置を作製し,円周方向のバニシング加工装置で直接,加工条件の選定をした.以上より,研究の達成度は,当初は進捗が遅れていたが,円周方向のバニシング加工を前倒しで行い,その加工条件を直接選定したため,おおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は昨年度開発した円周方向のバニシング加工装置を用いて,種々の熱処理条件(熱処理温度,熱処理時間)による,結晶方位を測定する.また,純鉄板のみでなく,実際に鉄心に用いられるSi鉄(Fe-3%Si)も試験片として用いる.バニシング加工装置により導入されたせん断ひずみが熱処理後の結晶方位に及ぼす影響を調査する.熱処理温度・熱処理時間などは,結晶粒の成長に影響する重要なパラメータであるため,これらが結晶方位,結晶粒の成長に及ぼす影響も調査する.また,これまでは繰り返し数n=1で行ってきたが,熱処理などによる再結晶・粒成長は確立論的な現象であるため,繰り返し数(n数)を増やし実験を実施する.以上の実験から,円周もしくは半径方向に均一な結晶方位を有する条件を提案し,最終的には円周・半径方向に<100>方位(磁化容易軸)が配向する加工条件・熱処理条件を提案する.
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