本研究課題では,次世代不揮発メモリMRAM(Magnetic random access memory)の基本メモリそしである垂直磁化型トンネル磁気抵抗(MTJ)素子への応用に向け,完全にスピン分極したハーフメタル強磁性体に垂直磁気異方性を付与することを目的とした.特に,ハーフメタルとされるL21型フルホイスラー合金Co2FeSi(CFS)は,Feを含む合金であるため,MgOとの界面を形成すると,Fe-O結合に起因する界面の垂直磁気異方性が発現する可能性があった. まず,対抗ターゲットスパッタ法を用いて,厚さ100nmのCFS薄膜をMgO基板/非磁性Pdバッファ層上に形成し,詳細なX線回折パターンと磁化特性から,結晶性の良いL21型Co2FeSi薄膜の作製条件を確立した.次にCFS薄膜を0.6nm~2nmに極薄層化し,さらにその上にMgO層を2nmを堆積したCFS/MgO積層構造を作製した.CFS膜厚が0.6nm~1nmと非常に薄い場合で,CFS/MgO積層構造は垂直磁気異方性を示した.一方,CFS薄膜が2nmの場合では,面内磁気異方性が観測された.また,CFS膜厚が1nmの試料でもMgO層を形成しなかった場合では,面内磁気異方性が観測された.これらは,得られた垂直磁気異方性がCFS/MgO界面に起因することを示している. 以上より,ハーフメタルと期待されるフルホイスラー合金Co2FeSiとMgO界面を形成することで,CFS薄膜に垂直磁気異方性を付与することに成功し,さらにその起源がCFS/MgO界面によるものだと確認した.
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