研究課題/領域番号 |
25889023
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
沖 拓弥 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (40712766)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 避難困難 / 木造住宅密集地域整備事業 / 広域避難シミュレーション / 可視化 / 防災・減災 / 定量化 / 物的被害 / 交差点間距離短縮 |
研究概要 |
大地震時の物的被害と人々の避難行動をモデル化した広域避難シミュレーションモデルを用いることで,東京都世田谷区若林3丁目・4丁目地区における実際の木造住宅密集地域整備事業の評価を行った。具体的には,(1)建物の不燃化・耐震化が進んでいても,整備箇所の空間分布の偏りにより,局所的に地域住民が避難困難となりやすい箇所が残っていること,(2)幅員が狭く交差点間の距離が長い道路に面している建物で,特に避難困難となりやすいこと,(3)交差点間の距離を短縮するようなバイパス道路を設けることで,道路拡幅等の既存手法と比較して,効果的かつ効率的に地域全体の広域避難の困難さを改善できることを定量的に示した。 また,東京都足立区北千住地域を対象とした広域避難シミュレーションでは,徒歩帰宅シミュレーションモデルを組み合わせ,首都直下地震時における人々の広域避難・徒歩帰宅の様子を総合的にシミュレートした。ここでは,徒歩帰宅者や広域避難者が市街地の火災延焼にさらされるリスクや,避難場所や主要幹線道路における混雑度の推定,あるいは避難困難者が発生しやすい地域やその程度を定量的に示すことができた。 従来,木造住宅密集地域整備事業は有効性の評価が難しく,鉄骨造・鉄筋コンクリート造建物や空地の割合がどの程度増加したかどうかで進捗が評価され,優先的に整備すべき場所も行政や整備事業者の直感に頼って決定されてきた。しかし,本研究で提案したシミュレーションモデルを用いることで,大地震によって建物が倒壊・延焼し道路が閉塞している状況下で,人々が避難場所まで到達できるかという,人々の生死に直接的に関わる指標を用いて整備事業を評価・検討することが可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画は「避難困難率に基づく木造住宅密集地域整備事業評価手法の開発」であった。 このうち,(1)地物(建築物や道路ネットワーク等)データや施設内滞留者・歩行者の時空間分布データを過去2時点(平成3年と平成18年)について作成し,(2)大地震発生時の人々の避難行動を可視化し,(3)建物・道路単位で避難困難率(避難困難者が発生する確率)を算出し,(4)木造住宅密集地域整備事業における整備箇所と避難困難率の経年変化との関連を分析し,(5)広域避難の困難さの観点による効果的かつ効率的な木造住宅密集地域の整備手法について,具体的なケーススタディによって検討した。したがって,平成25年度に予定していた研究内容は概ね完了できたといえる。 一方で,情報伝達や避難誘導といったソフト面の対策の効果や,木造住宅密集地域のもつ空間的魅力と広域避難時の安全性の両立可能性については,平成25年度内に着手することができなかった。その一つ目の理由は,平成26年度以降に取り組むことを予定していた,大地震発生時に避難場所へ向かう人々に影響を及ぼす自動車利用者の時空間分布を詳細かつ広範囲で推定することや,徒歩帰宅者のモデルへの組み込みを,前倒しして実施する必要が生じたためである。二つ目の理由は,情報伝達モデルや避難誘導モデルについてはモデルが複雑になることから,広域避難シミュレーションモデルに組み込む以前に,よりシンプルなシミュレーションでその妥当性を十分検証しておくべきと判断したためである。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に開発した「避難困難率に基づく木造住宅密集地域整備事業評価手法」に基づき,地域防災計画策定への応用を試みるとともに,その入力データとなる統合型時空間分布推定システムを構築する。平成25年度の後半に,当初用いていた世田谷区提供の市街地GIS(地理情報システム)データではなく,東京都全体をカバーする「東京都都市計画GISデータ」を用いてシミュレーション環境を作成することに成功しており,今後は東京都内に残存する木造住宅密集地域の評価を幅広く行う予定である。特に,先述の情報伝達や避難誘導のほか,地域住民による初期消火活動や救助活動をシミュレーションモデルに組み込み,効果的な減災方法について多角的に検討する。 研究遂行上の問題点の一つ目は,現状のシミュレーションプログラムでは,計算負荷の問題から,シミュレーション対象範囲の拡大(対象者数の増加)に限界がある点である。この問題に対しては,人々をいくつかのグループにあらかじめ分けた上で,各グループの計算を並列で実行できるようにプログラムを書き換え,スーパーコンピュータで実行することが有効であると考えられる。しかし,複雑な避難シミュレーションプログラムの書き換えには多くの時間と労力を要し,研究計画全体の遂行に支障をきたすことから,複数の補助作業者に作業を依頼することを検討している。 問題点の二つ目は,現在用いている,パーソントリップ調査データと道路交通センサスデータのみによる自動車利用者の時空間分布推定精度の向上に限界がある点である。この問題に対しては,プローブデータ等,豊富な道路混雑・走行速度情報を有するデータを補助的に用いることが有効であると考えられる。
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