平成25年度に開発した「大地震発生時の広域避難シミュレーションモデル」のブラッシュアップを進めながら,以下の研究成果を挙げた。 1.これまで地域内の建物内滞留者と歩行者による避難場所までの広域避難行動のみを対象としていたシミュレーションモデルに,地域外から流入・通過する徒歩帰宅者の影響を組み込んだ。その結果,(1)徒歩帰宅者が大地震発生後に帰宅経路上で曝されるリスクや,(2)徒歩帰宅者の混在による避難場所や避難経路の混雑悪化の定量化が可能となった。徒歩帰宅を抑制するための根拠として用いられることが期待される。 2.大地震発生時の居場所から避難場所まで到達できない人々(避難困難者)を,新たに3種類((1)倒壊建物内の閉じ込め者,(2)倒壊建物の瓦礫や火災による街路上での閉じ込め者,(3)建物内・街路上での負傷や火災による死亡者)に細分化した上で,地域住民による救助活動をモデル化した。その結果,地域住民による救助活動の効果と逃げ遅れの危険性の定量化が可能となった。これまで提案してきた緊急避難経路の整備による交差点間距離短縮を補う,地域全体の人的被害低減のための住民自身による救助活動のあり方を具体的に検討するツールとして用いられることが期待される。 3.シミュレーションプログラムの改良により,上記の1と2に記したモデルを用いて,大地震時の建物倒壊・火災延焼の危険性が高いとされる東京都足立区北千住地域を対象とした10万エージェント規模の(発災から12時間後までの)シミュレーションを,実時間の1/10程度の時間で実行することが可能となった。 今後は,自動車による道路の混雑・閉塞や,世帯単位の行動特性を組み込み,シミュレーションモデルの更なる精緻化を図るとともに,多様な地域・ケースを対象としたシミュレーションを通じて,具体的な地域防災・減災計画策定のための検討を引き続き進めていく予定である。
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