研究概要 |
電磁波の低群速度伝搬の実現は, 光情報処理における光メモリの実現や非線形現象発生の高効率化などに応用できる重要な技術である. 低群速度伝搬を実現する手法の1つとして量子光学における電磁誘起透明化現象を古典系で模擬するという研究がなされている. 本研究では, 間接結合型共振器で構成されるメタマテリアルを用いると, 従来手法に比べて非常に遅い群速度が実現できることを実験的に示すことを目的とする. 今年度は, 低群速度を得るのに最適なメタマテリアルの構造を, FDTD法を用いた電磁界シミュレーションを利用して設計した. 低群速度を得るための妨げになる要因がメタマテリアル中の誘電体における誘電損失であることを既に見出していたので, 構造中から誘電体を排除できるようにし, かつレーザー加工でメタマテリアルの作製ができるように設計を行った. その結果, 実験を行うマイクロ波領域において低群速度伝搬が実現できるようなメタマテリアルの構造パラメータの決定に成功した. 設計したメタマテリアルをレーザー加工により実際に作製し, 透過特性の測定を行ったところ, シミュレーション結果とおおよそ一致する結果が得られた. さらに, 従来手法よりも遅い群速度が実現できる可能性を示唆する結果が得られた. 次年度にメタマテリアルの構造パラメータの最適化を行うことにより, さらに遅い群速度が実現できると考える. 本研究結果は, 間接結合型共振器で構成されるメタマテリアルによる電磁波の低群速度伝搬の実現について, 基本的な部分の実証実験に成功したことを表しており, 今後の群速度制御技術の発展, さらには光情報処理技術の発展等に貢献するものであると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画は, 低群速度伝搬実現に適したメタマテリアルの構造のFDTD法を用いた電磁界シミュレーションによる設計と, メタマテリアルの透過特性測定のための実験系の構築であった. まず, メタマテリアルの構造設計については, メタマテリアルにおける群速度の低下を妨げる要因である誘電体の排除, レーザー加工が可能かつ実験に用いる導波管に設置可能な形状の設計に成功した. 実験系についても, 今年度の本研究費により購入したマイクロ波導波管素子を用いて, メタマテリアルの透過率や群速度の周波数依存性の測定を精度良く行える状態にまで構築した. さらに, メタマテリアルをレーザー加工により1サンプル作製し, 透過率および群速度の周波数依存性の測定を行った. その結果, FDTDシミュレーションと実験結果がおおよそ一致するという結果が得られた. これはメタマテリアルの電磁界シミュレーションによる構造設計および実験系の構築が共に上手くいっていることを表している. さらに, メタマテリアルの構造パラメータを実験的に最適化することにより, 従来手法に比べて遅い群速度が得られる可能性を示唆する結果が得られている. 以上の結果は, 研究が計画通りに進んでいることを意味しており, 次年度に行う予定の, 間接結合型共振器で構成されるメタマテリアルにおいて得られる最小群速度の実験的な探求や, 低群速度伝搬による局所電場増強効果を利用した非線形メタマテリアルの実現とその応用探索に関する研究にスムーズにつながるものである.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は, 研究計画調書に記載の研究計画通りに進展しているので, 次年度も研究計画に従って研究を推進する予定である. 具体的には, まず, メタマテリアルにおいて得られる群速度の最小値の実験的な探求を行う. 今年度に設計したメタマテリアルを基にして, 今年度に構築した実験系を用いて, 群速度が最小となるように, メタマテリアルの構造パラメータの最適化を行う. また, 最適化後のメタマテリアルの透過スペクトルから, メタマテリアルにおける損失パラメータを求め, 本研究における原理, 手法をテラヘルツ波や光領域に拡張した際の動作上限周波数を算出し, 今後のメタマテリアルの高周波化において必要なデータを示す. 次に, 低群速度伝搬に伴う局所電場増強効果を利用した, 非線形メタマテリアルの実現に取り組む. 最適化されたメタマテリアルの透過スペクトルから局所電場増強率を求め, マイクロ波源の最大出力パワー, 空気の絶縁破壊電場の関係から, メタマテリアルにおいて空気の絶縁破壊に起因する非線形現象が生じるかどうかを見積もる. 局所電場増強率が非線形現象を起こすために必要な値よりも小さくなる可能性が有るが, その場合は, ファブリペロー共振器中にメタマテリアルを配置することにより, 局所電場増強率をさらに大きくする. メタマテリアルの非線形性の観測は, 透過スペクトルの入射パワー依存性および単色波や変調波を入射した場合のスペクトルの変化を通して行う. スペクトルの測定のために必要な装置は次年度の本研究費により購入する. 得られた非線形応答特性から, 作製した非線形メタマテリアルを電磁波に対するリミッターやフューズ, 非線形電磁波動発生素子, あるいはその他の応用につなげることができないかどうかを考察, 検証する.
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