前年度に引き続き,平成26年度は温度勾配をもつ流体中に置かれた単一微小粒子の熱泳動現象に対する理論的および実験的研究に取り組み,以下の3点に関する知見を得た.
1.理論的研究 一様な温度勾配を持つ理想気体中において,浮遊する微小粒子の速度分布関数に対する線形ボルツマン方程式を導いた.剛体球の仮定のもと,温度勾配の強さを表す微小パラメータおよび分子の微小粒子に対する質量比について摂動解析を行い,微小粒子の巨視的数密度に対する移流拡散方程式を得た.その結果,泳動速度に対する微小粒子の質量依存性を明らかにした. 2.分子動力学計算 Lennard-Jones流体中に置かれた単一微小粒子である溶質粒子について分子動力学法による計算を行い,熱泳動に対する粒子モデルや溶質溶媒間相互作用モデルの影響を調べた.溶質の溶媒に対する親和性が低いとき,溶質は温度勾配の高い方向へ力を受ける傾向があることが分かった. 3.実験的研究 一定温度に保たれた2枚の平板を同一平面内に隣接させて配置し,その隣接部分をまたいでコロイド分散液のリザーバを張り付けた.溶液中には2枚の平板により非一様温度分布が形成されるため,コロイド粒子は熱泳動する.ポリスチレンまたはシリカのコロイド粒子(直径1μm)に対して熱泳動を可視化観察し,画像解析により泳動速度を求めた.温度制御開始直後,ポリスチレン粒子は温度の低い方向に過渡的に動いたが,同じ粒径のシリカ粒子はほとんど動かなかった.この実験により,ポリスチレンとシリカのSoret係数が異なることが確認できた.
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