本研究は,山地渓流の河道特性やハビタット特性が地質の影響でどのように変化するかを定量的に明らかにすることが目的である。前年度は熊本県・菊池川流域の9河川を対象として調査を行ったが,今年度はより一般性を高めるために,菊池川流域から対象範囲を広げ,気候,降雨パターンが比較的同一と考えられる九州中北部を流れる菊池川,矢部川,筑後川,嘉瀬川水系の山地渓流において物理環境調査を行った。流域地質が花崗岩,泥質片岩,溶結凝灰岩である河川において,それぞれ18地点,18地点,17地点の合計53地点で物理環境調査((河道測量,ハビタット構成割合,ステップの形状等)をおこなった。 調査の結果,ステップ高については,既往研究とは異なり,河床勾配との明瞭な関係性は確認されなかった。ステップはその場所の掃流力で流されない巨礫を起点に形成していると仮定し,その場の掃流力の指標として,勾配と流域面積をかけたストリームパワーとステップ高の関係性を調べた。ステップ高は,ストリームパワーの指数形でよく近似された。また,その関係性は地質によって異なっていた。花崗岩は比較的ステップ高が高かった一方,岩盤の露出しやすい溶結凝灰岩はステップ直下流に存在するプールが洗掘されにくいため,ステップ高は高くならなかった。泥質片岩は河川によるバラツキが大きかった。泥質片岩に発達する片理面の走向と河川の流れる方向の成す角によって河床堆積土砂下層の岩盤構造が変化することが関係している可能性がある。 本年度の多地点での調査により,流程,掃流力の影響を考慮しながら,流域地質が異なると渓流の河床形態(ステップ-プール構造)が異なることが一般性を高める形で示された。また,岩盤の影響が極めて大きく,露岩して深掘れしないことに加えて,河床堆積土砂下層の岩盤形状が影響を与えている可能性が示唆された。
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