本研究は,既存建物の構造健全性診断に有用となる損傷検出方法の開発を目的としている。具体的には,建物の多点同時微動測定記録から同定した振動モード特性の損傷前後の変化に着目し,建物の損傷有無,損傷位置および損傷レベルを把握するための実用的な指標を見出そうとするものである。現在,この構造ヘルスモニタリング手法の発展を遅らせている大きな要因の一つは,既存建物の実測例自体が非常に少なく,特に損傷した実建物の詳細な振動モード特性が明らかにされていないことにある。本研究では,非損傷建物および損傷建物を対象として高密度微動測定を行い,その詳細な振動モード特性を明らかにする。さらに,これまで数値実験や振動台実験のみでしか検討されてこなかった種々の損傷検出方法についての検証も行うことを目標としている。 本年度は,主に過去に測定を行った建物群の測定データチェック及び整理を行い,利用できる測定データの仕分けのための作業を行った。また,研究目的の一つである「実測記録から同定されたモード特性の精度の確認」を行うために,非損傷建物の2日間にわたる測定データを対象として,微風時および強風時の違いを検討した。具体的には,モード特性同定手法の有効な方法の一つであるFDD法を用いてモード特性を比較検討した。この結果,固有振動数およびモード減衰の同定誤差は大きい一方,低次のモード形状については精度よく同定できることを,理論的側面,および実測記録から確認した。なお,立体振動モード特性を同定する際には微動の部分測定データから建物全体のモード特性を同定するための方法論が必要であったことから,この方法論を展開しまとめた。この成果については,地震工学会大会において口頭発表を行っている。
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