本研究では,太和殿扉の古式文様を対象として,日本の木造文化財等で行われる文様調査技法を援用し,原寸大の古式文様記録調査図作成と塗膜の分析より,古式文様,配置構成,顔料成分などの特徴を解明し,勤成殿扉塗装設計方法に関する復原研究を具体的に前進させることを目的とするものである.太和殿の玉座後方に位置する扉(以下太和殿扉)には,古式の黄色塗膜や龍文を主体とする文様などが残存している.フエ遺跡保存センター協力のもと,伝統的建築塗装設計技術に関する分析を行った. 太和殿扉の塗膜状況を肉眼で観察し,塗膜層が重なっている状況や修理痕跡などを確認した.太和殿扉付近に剥落していた黄色の塗膜片を採取し,剥落場所と塗膜の状況観察から,塗膜片は,扉の塗膜の一部であると推定した.採取した分析用試料は,日本の専門機関に分析を委託し,X線回析による顔料に関する分析と,FT-IR測定による塗料成分に関する分析を行った. 太和殿扉の古式文様記録調査図を作成した.調査図はトレーシングフイルムをあてがい固定した上で,残存状況を書き記し,写真記録を併用して行った.古式文様記録調査図は,カラーデジタルスキャニングを行い,データのデジタル化を図った. 扉の色彩構成と平面配置との関係については,概要を整理した.塗装修理や伝統建築塗装技術に関しては,技能者やフエ遺跡保存センター担当技官に聞き取り調査を行った. 現地建築調査による現存遺構の調査と文献研究などから得られた成果より,勤成殿扉における色彩や文様などの塗装設計案について復原的に考察を試みた.
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