微生物菌体触媒を用いた芳香族化合物合成は、バイオリファイナリーにおける重要な分野の一つである。各種阻害物耐性、耐酸性等の側面から、酵母Saccharomyces cerevisiaeは産業的生産を考慮した場合の理想的な宿主であると考えられている。しかしながら、代謝経路がエタノール発酵に支配されてしまうクラブトリー効果の影響により、自由自在な代謝改変ができないといった大きな問題が生じている。バイオリファイナリー型社会構築の上で今後急速に需要が伸びてくると予想される分野を開拓し、立ちはだかっている数多くの問題を解決する手段として、本研究においてはNon-Conventional酵母の利用に着目した。昨年度の研究結果より、Kluyveromyces lactisの一種について、エタノールをほとんど生産しないということを見出された。本年度はまず、スクリーニングに成功したK.lactis株の形質転換方法の最適化を行った。その結果、K.lactisに高効率でプラスミドを導入可能な手法を見出すことに成功した。同時に、モデル酵母であるS.cerevisiae、大腸菌細胞中で各種芳香族化合物修飾酵素の評価を行い、いくつかの酵素について評価を行った。チロシンの脱炭酸を触媒する高活性な酵素や、サリチル酸を高生産可能な酵素を取得することに成功し、学術論文での発表、特許の取得をそれぞれ行った。今後、本研究における成果を組み合わせることにより、K.lactisを用いた新規芳香族化合物合成法が開発されることが期待される。
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