ダイヤモンドはSiCやGaNを凌駕する優れた物性値を複数有しており、次々世代の省エネパワー半導体材料として期待されている。実用化に最も近いとされる、ダイヤモンドショットキーダイオードに関しては、耐高温電極の開発、高耐圧フィールドプレート層技術の確立等、キー要素技術が開発され、さらには高温での安定・高速スイッチングなど、物性に依存した高いポテンシャルが実証されてきた。今後数kA/cm2級の高電流密度に耐え、低損失かつ高耐圧なデバイス実現には「高濃度ホウ素ドープされた低抵抗ウェハ」上への縦型デバイス作製が必須である。しかし、低抵抗ウェハの作製技術は極めて未熟であり、数mm2角の基板が高温高圧法で僅かに生産されているのみである。 そのような背景のもと本研究は、(1) 高温高圧法で合成された低抵抗基板の欠陥構造解析から潜在する問題を抽出し、(2) CVD法による高濃度ホウ素ドープに着手し、独自に低抵抗ウェハの創製に取り組んだ。その結果 (1) に関しては、X線トポグラフィー法による評価から、高温高圧法で特異的にみられる、種結晶からの成長痕が存在しており、デバイス特性劣化につながる貫通転位が5E3cm-2の密度で存在していることを見出した。(2)に関しては、低抵抗ウェハの革新的な大面積化を狙い、フィラメントCVD法によるウェハ合成をスタートさせた。基板温度と原料ガスの濃度制御により異常成長粒子を抑制する条件を見出し、ウェハ合成プロセスを開拓することに成功した。自立結晶の品質を評価したところ、ラマン分光半値全幅1.9cm-1、X線ロッキングカーブ半値全幅40秒と市販基板に匹敵する高品質性を有していた。本研究実施により、ダイヤモンド低抵抗ウェハの合成に向けた重要基盤技術(結晶品質制御、大面積化への指針)を確立することができた。
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